再会
ここから少しずつ話が動いていくと思います、きっと。
「初めまして、アタクシの名前はフラン=フォン=ファルシオン。
よろしくお願いしますわ、聖女様」
(……コイツがファルシオン家の嫡女か、動きが全く見えなかった)
フランはそう言って、優雅にアウィンに頭を下げた。
流れるような紫色の髪と、健康的な褐色肌が眩しく見える。
対するアウィンは冷や汗を掻き、フランの戦闘力に慄いた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。アウィン=ビタリサと申します」
「まあ、なんて素敵なお名前! ありがとうございます、アウィン様!!」
しかし、それを表面上には出さず、アウィンは手を差し伸べながら挨拶した。
フランはその手を無邪気に握る。
(聖女様に会えるなんて幸運だわ! どんなお話を聞けるかしら?)
(……悪い奴では無さそうだな)
固く握手する二人。同時にアウィンにはフランの心の声も聞こえてきた。
邪心は無く、満面の笑みを浮かべて会えた事を喜んでいるフラン。
アウィンはそれに安心しながら、自身も満面の笑みを浮かべて応える。
「フランさん!」
「そ、その声はカンナギさん!?」
そこに滑り込むように奏慈が走ってやって来た。
フランは慌てて手を離すと、すぐに奏慈の元に駆け寄る。
「無事だったんですのね!!」
「はあ、はあ……ええ、アウィンさんの御蔭で」
「えっ、聖女様が!?」
フランは驚きながらもアウィンの方を振り返った。
アウィンは笑みを浮かべ、それに応える。
それを見て、今度はアウィンの元にフランは駆け寄った。
「ありがとうございます、アウィン様!!」
「は、はい、どういたしまして?」
フランは再びアウィンの手を握ると、ぶんぶんと振り出した。
勢いに押されるアウィンだが、顔は引きつりつつも笑みを崩さない。
「本当に本当にありがとうございます!」
「あ、あはは」
そんなアウィンでも手招きし、奏慈に助け舟を求めた。
それを見た奏慈は二人の間に割って入る。
「ふ、フランさん、そこまでに」
「い、いけない。すみません、アウィン様……興奮しちゃって」
「いえいえ……助かりました、カンナギさん」
なんとかフランは落ち着いた。申し訳なさそうに手を合わせて謝る。
アウィンはそれに対し笑顔で応えながら、小声で奏慈に礼を言った。
「では屋敷に戻りましょうか、お父さんも心配してるので」
「はい」
(ふう、どっと疲れたな)
落ち着きを取り戻したフランは、二人を馬車まで連れていく。
そのまま馬車に乗り込み、日が傾いた頃には屋敷に辿り着いた。
ハルベルムは無事に戻ってきた奏慈の姿を見て、心の底から安心する。
「うぅ……」
――しかし、安心したのも束の間、ハルベルムはフランを椅子に座らせた。
有無を言わさず、強制的に。対するハルベルムは鬼の形相を浮かべて立っている。
間も無くハルベルムは口を開くと、怒号を上げて怒り出した。
「無事だったから良かったものの、護衛を放棄して遊ぶとはどういう事だ!!」
「ハ、ハルベルムさん……それは私が許可したからで」
「だとしてもです、図書館が閉まるまで何時間もありました。
カンナギ殿を迎えに行くのは可能だった筈です」
「それは確かに」
「ちょ、どっちの味方なんですか!?」
「お前は黙っていなさい!!」
「はい……」
奏慈は割って入るも、ハルベルムを止める事は叶わない。
しゅんとするフラン。自分の非を理解しているのもあり、反論できない。
それでも唇をきゅっと結びながら、フランは反撃を開始する。
「ボーアが悪いんですのよ! もう行くと何度も言ったのに、引き留めるから!!
それが無かったら、閉まるまでに迎えに行くのも可能でしたわ!!」
「引き留めるから、か……どうやって引き留められたんだ?」
「えっ」
「フォチャード家と我が家は同格だ、無理矢理に引き留める事はできない。
ならば引き留められたのではなく、自分の意思で留まったのだろう?」
「それは……」
「ちゃんと説明しなさい、言い訳をするのなら」
「……ボーアの抜くのに時間がかかって」
「馬鹿者!!」
「ひっ!?」
反撃はあえなく失敗した。ハルベルムは増々、鬼の形相になっていく。
それに対し、フランは普段の調子を完全に失くし、ぶるぶると震えだす。
「アウィンさん、これは」
「そうですね」
蚊帳の外の奏慈とアウィンだったが、これ以上静観する事はできない。
アウィンはあからさまに溜め息を吐くと、よく通る声で話し出した。
「それにしても、あの飛竜はなんだったんでしょう?
ハルベルム様は何か掴んでおられますか?」
「むっ、それは」
「たぶんなんですけど、あの飛竜は野生じゃないと思うんですよ」
「……何故そう思うのですか?」
アウィンの作戦が決まり、ハルベルムは表情を和らげて話を聞き出した。
頭は完全に飛竜の件に移り、フランの事など眼中に無い。
それを見て、ニカっと笑いながらアウィンは話を続ける。
「野生の飛竜にしては動きが良すぎたんです。勿論、頭の良い飛竜も居ます。
でも、所詮は野生の飛竜……仲間と連携して攻撃するのは少ない」
「確かに連携して動いてましたね」
「だから、裏で操っている人が居ると思うんです」
「魔物使いですか……」
「はい、魔物使いが居ると思います」
『魔物使い』という言葉を聞き、ハルベルムの表情が曇った。
話を聞いていたフランも、その言葉を聞いて表情を曇らせる。
それに対し、奏慈はきょとんとした顔で状況を理解できずにいた。
「ああカンナギさんはご存じありませんわよね」
「はい、魔物使いってなんなんですか?」
「魔物使いというのは自身の魔力を使って、魔物を使役する者の事ですわ。
意思疎通の難しい魔物でも自由に操り、遠隔から魔物を操作できますの」
「そんなのが……じゃあ、本当に魔物使いが」
「ですが、証拠がありません。今、飛竜の遺体を調べていますが」
「魔物に痕跡が残らないんです。優秀な魔物使いなら尚更残さない」
「つまり、証拠は無いけど一番可能性があるのが魔物使い……
(思い出すんだ、もしそうなら居る筈だ……あの場に魔物使いが)」
奏慈は顎に手を当て、静かにそう呟く。同時に先程の戦いを思い出し始めた。
それを見たアウィンは奏慈だけに聞こえるように言う。
「見える所に居ないと思いますよ」
「えっ、アウィンさん?」
「ああいえ、考え始めていたので先程の戦いを思い出してるのかと」
「は、はい、そうです。よく分かりましたね、まるで心を読んだみたいだ」
「あはは……」
素直にそう思う奏慈に対し、アウィンは空笑いで応えた。
実際、そうなのだから勘がいい。
そして、その空笑いを続けながらアウィンは言葉を続ける。
「とにかく、警戒を続けるべきだと思います。飛竜が出たのは事実なので」
「そうですね、この事は騎士達にも伝えておきましょう」
「はい、よろしくお願いします」
(凄いなあ……)
アウィンは場の流れを完全に支配し、話も滞りなく終わらせた。
奏慈はそれにただただ圧倒される。
そうして話を終えたアウィンは深く息を吐くと、汗を拭いながら続けて言う。
「ああすみません、休ませて貰ってもいいですか? なんだか疲れてしまって」
「これは失礼しました。すぐに使用人に準備をさせましょう」
「ありがとうございます。カンナギさん、行きましょうか」
「ああ、はい」
奏慈はアウィンに導かれるまま部屋を出た。
部屋の外には既に使用人が居り、その使用人に伴われて二人は歩き出す。
(魔物使い…もし居るのなら、これからも村や人を襲うのか?
でも、何の為に襲わせているんだ?)
二人の間に会話は無く、奏慈はずっと顎に手を当てて考えている。
間も無く、二人はそれぞれの部屋に着いた。
「では、私はこれで」
「はい……」
そう言って、アウィンはドアノブに手をかける。
だが、開けずにドアの方を向いたままアウィンは優しく告げた。
「今、私達にできる事は何もありません。報告を待ちましょう」
「……そうですよね。ええ、分かっています」
奏慈の言葉を聞き終わると、アウィンはドアを開けて部屋に入った。
それでも考え込む奏慈だったが、同じくドアを開けて部屋に入る。
そして、一緒に入ってきた使用人に風呂に入れられ着替えもさせられた。
「ふう……」
一日ぶりの風呂の御蔭か、血色が戻ってきた奏慈。
それでも尚、ベッドに座った状態で考え続ける。
「すみません、いいですか?」
「……ああ、いいですよ」
そんな時にノック音と共にアウィンの声が聞こえてきた。
奏慈はそれに対し、少し間を空けて応える。
「ありがとうございます」
すると、待っていましたと言わんばかりにアウィンはドアを開けた。
そして、そのまま部屋の中に入ってくる。その勢いに奏慈は気圧された。
「えっと、どうしましたか」
「いいえ、ずっと考え込んでいたので」
「ああすみません、気を遣わせてしまって」
「……いえいえ、そんな事ありませんよ」
「えっ」
アウィンは流れるように奏慈の横に座り、慈愛に満ちた表情でそう言う。
風呂上がりなのか上気した顔で、ふんわりと良い香りも漂わせて。
そして、手が触れる距離で居る。
「距離、近くないですか」
「そうですか……?」
今日一日ずっと行動していたアウィンの顔が間近に見える。
改めて見たアウィンの顔は美少女のそれであり、纏う雰囲気も可愛らしい。
「いやいやいや」
突然の事で頭が真っ白になる奏慈。状況を全く理解できず、頭を左右に振る
それでも冷静に、間違いを起こさないように奏慈は言葉を続けた。
「アウィンさん、駄目ですよ」
「……何がですか?」
「男というのは勘違いしがちなんです。私は違いますよ。
こんなに近くで、優しい事を言われると……自分の事を好きなのでは?
そう思ってしまう馬鹿な奴が居るんです」
「…………」
「アウィンさんは可愛い人なので、今後そういう事は止めた方が良いと……」
「ちっ」
「えっ?」
「ごほんごほん、そうですよね!! 聖女だし、気をつけないとですね」
「え、ええ、はい」
「では、考えてる事を教えてくれませんか? 力になりたいんです」
「…分かりました」
一瞬何か聞こえた気がした奏慈だったが、気にせずアウィンに話し出した。
その話をアウィンは上気した顔で聞き続ける……
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