邂逅
初めての投稿になります、よろしくお願いします。
つたない部分もあると思いますが、楽しんで頂けたら幸いです。
「はっ!」
「甘いですぞ!」
ファルシオン家の屋敷、その中庭で金属と金属がぶつかり合う音が響き渡る。
そこには斧を持つ褐色肌の少女と剣を持つ中年の男が向かい合っていた。
日課である訓練だが、男の方が優勢か顔に疲れは無い。
だが少女にもまだ余裕があり、笑みを浮かべている。
「フラン様、今日はこの辺に致しましょう」
「……分かりました、エストもご苦労さま」
男の音頭に合わせて、不満げながらもフランと呼ばれ少女が大きく息を吐く。
同時にフランの持つ斧が淡い光を放ち、その形を金色の指輪へと変えた。
――サモンウェポン。魔力を込める事で、適性に合った武器へと変わる魔装具。
この世界の住人なら、戦いを殆どしない者でも身に着けている必需品だ。
そのサモンウェポンを用いての訓練は、フランが学園を卒業してから続けている。
そして、その訓練に付き合っているのはファルシオン騎士団が誇る剣士エスト。
フランの祖母の代から仕え、騎士総長として団員達を導いている。
そんなエストに頼み込み、フランは今日もまた訓練に付き合って貰ったのだ。
「失礼します!」
「ゴーシュか、そんなに急いでどうした」
そこにゴーシュが駆け込んで来た。彼は副総長であり、エストの部下の一人だ。
だから、訓練の事も知っている。それでも来たのなら、火急の案件なのだろう。
「飛竜です! 領内で飛竜の目撃情報が出ました……!」
「飛竜が?」
この世界には飛竜便という飛竜を使った輸送会社が存在する。
その為、竜の中でも飛竜は見る機会の多い生物だ。
だが、あの慌てようを見るに飛竜便の飛竜ではないのだろう。
「畑仕事中の村人が見たそうです、飛竜便の飛竜でも無かったと!」
「野生の飛竜か……この辺りでは珍しいな」
「どうします、討伐しますか?」
「いや、飛竜便から逃げ出した可能性もある。捕らえねばなるまい」
飛竜便の飛竜のように人に慣れているのであれば問題は無い。
しかし、野生となれば話は変わる。空を飛び、地を焼き、獲物に爪を立てる。
武器があっても、ただの村人が抵抗できる相手ではないのだ。
「アタシも同行します」
「フラン様?」
「領内に飛竜が出たのなら民が心配です、見過ごす事などできませんわ」
何を隠そう彼女はこの領内を治めるファルシオン大公家の嫡女。
民を守る立場にあり、となれば黙って見ている訳にはいけない。
共に行く事を強い意志を持って、フランはエストに言った。
その彼女の様子を見て、エストは溜め息混じりに口を開く。
「言っても聞いて下さりませんか」
「ええ」
「……分かりました、責任はこのエストが取りましょう。
ゴーシュ、すぐに部隊を編成し、飛竜を捕らえるぞ!」
「了解しました! では、失礼致します」
ゴーシュは頭を下げ、足早にその場を後にする。
そして、フランとエストもまた準備の為にその場を後にするのだった。
十分後、早馬で飛竜の目撃情報のあったマイン村に辿り着く。
のどかな場所であり、村人の大半が畑仕事に従事している。
そんな村も今は飛竜が出た事で騒がしく、村人は怯えていた。
「では、もう一度詳しく教えてくれませんか?」
「あ、ああ、いつものように畑仕事してたんだ、そしたら」
「頭上を飛竜が飛んでいたと」
「え、ええ」
騎士が辺りを見張りつつ、早速飛竜を見たと言う村人に話を聞く。
そんな騎士の姿を見てか、村人達は落ち着きを取り戻し始める。
「それでどっちに向かったか分かりませんか?」
「森です、森の方へ向かっていきました!」
「森か……」
その御蔭でどこに行ったのかもすぐに分かった。森とは村近くの物だった。
馬を走らせれば、すぐに着く距離。そんな距離に正体不明の飛竜が居る。
「ゴーシュ、村に数人残して森へ向かうぞ」
「了解しました、すぐに準備します」
慌ただしく動き出す騎士達。村人達にも指示し、家から出ないように伝える。
この行動の早さこそ村人達が安心した理由なのだ。
間も無くフラン達は馬を走らせ、件の森へと辿り着いた。
「本当にここに居るのか?」
「間違いない、何人もの村人がそう言っている」
騎士達は周囲を警戒しながら、森の中を歩いている。
飛竜に気づかれ、逃げられれば振り出しに戻ってしまう。
騎士達は口数少なくし、音も立てないように進む。
「薄暗いですわね」
そんな彼らの後ろに斧を持ったフランも続く。
フランの持つ斧は持ち主の髪色と同じ紫色の戦斧。
その斧を持ってフランも周囲を警戒しながら、森の中を歩く。
「フラン様、お気をつけ下さい。
既にここは危険地帯、いつ飛竜が出るか分かりません」
「分かってますわ。でも、エストも用心なさい。
ファルシオン騎士団の総長が負けるなんて許されません」
「はっ!」
フランの後ろにエストが続き、指示に従って歩く。
フランは次々に指示を出しながら、周囲を警戒し続ける。
「フラン様」
「どうしました?」
「あれを」
そうして歩くこと数分、団員の一人が何かを見つけた。
団員の指差す先には、赤い鱗を身に纏った竜が静かに眠っている。
「よくやりましたわ……では、やりますわよ。
全員、散開しなさい」
「はっ!」
フランの指示で団員達は動き出した。
手には剣を持ち、バレないように飛竜を囲む。
間もなく団員は動き終え、次の指示を待つだけになる。
「では、手筈通りに」
「了解しました……皆の者、かかれ!」
「おお!」
エストの掛け声と共に、団員達は動き出した。
すぐに飛竜はそれに気づくと、翼を広げて飛び立とうとする。
「放て!」
そんな飛竜を止める為に、団員達は手をかざす。
すると、その掌から魔法で作られた縄が放たれた。
縄は飛竜の体に絡み付き、その動きを阻害し縛り付けようとする。
しかし、それでも飛竜は力尽くでその拘束を破り団員ごと飛び立つ。
「縄を放せ、宙吊りになるぞ!」
団員達は急いで縄から手を離し、次々に地面に着地する。
飛竜はその様子を見ながら、口の中を赤く燃え上がらせていく。
「させませんわ!」
フランはそれを見逃さず、飛竜に向かって手を伸ばした。
すると、飛竜の口の中で激しい爆発が起こる。
それはフランの放った爆発魔法であり、激しい閃光と音を発生させた。
飛竜は思わず驚き、燃え上がらせていた炎を飲み込んだ。
「ゴーシュ、続け!」
「はっ!」
それを見て、エストとゴーシュは跳躍する。
二人はあっと言う間に飛竜の高さまで跳んだ。
「よし、これなら……皆、もう一度縄を出して頂戴!
今後こそ捕らえますわよ!」
「了解しました!」
二人が飛竜と戦って時間を稼ぐ中、フランは団員達に指示をし始める。
団員達は再び魔法の縄を編み上げ、飛竜目掛けて一斉に縄を放った。
「アタシも続きますわ!」
二度目の縄は一度目よりも更に強く飛竜を縛っていく。
飛竜はたまらず地面に落ち、縄を解こうと暴れ出す。
「眠りなさい!」
そこにフランの強力な斧の一撃が叩き込まれる。
飛竜はその一撃で気絶し、ピクリとも動かなかった。
団員達はそれを確認すると、さらに飛竜の四肢を縛っていった。
「終わりましたな」
「……ええ」
その様子を見て、エストはホッと一息吐いて剣から力を抜く。
間もなく剣は光を放ち、金色の指輪に姿を変える。
「どうかされましたか?」
「いいえ、別に……」
「そ、そうですか……それなら良いのですが」
団員達もホッとする中で、フランだけは浮かない様子だった。
エストはそれ以上何も聞かず、二人の間に沈黙が訪れる。
「エスト様! 人です、人が倒れています!!」
「……人?」
「人だと? まさか、飛竜に襲われたのか?
だとしたらマズイな、すぐに案内してくれ!」
「はっ!」
エストは団員の案内の下、すぐにその人の元に向かう。
そして、フランも興味を惹かれてエスト達の後を追った。
「意識は無いようだな」
エストは倒れた人に触れながら、怪我が無いか確認する。
倒れていたのは男であり、この辺りでは見慣れない服装をしていた。
「怪我は無さそうだな」
「はあ、良かった……でも、念の為に屋敷まで運びましょう」
「そうですわね。誰か、担架を」
フランの指示の下、男は担架に乗せられ運ばれていく。
その間も男は魘された様子を見せながらも目覚めなかった。
フランはそんな男を見送り、溜め息混じりに呟く。
「今日も退屈な一日として終わりそう……」
そう言って肩を落とし、フランもその場を後にする。
だが、この時のフランは知らなかった。
この出会いこそが、退屈に感じていた日常を吹き飛ばす邂逅になる事を……
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
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