不思議な邂逅 【月夜譚No.268】
委員会の仕事が長引いて、帰りが遅くなってしまった。少女は家路を急いで靴を鳴らす。
明日提出の宿題が、手つかずのまま幾つか残っている。こういう日に限って早く帰れないのは、何故なのだろう。
とにかく一刻も早く帰宅して宿題を済ませてしまおうと、頭の中で算段をしながら歩く。
と、考えるのに夢中できちんと前を向いていなかったらしい。何か柔らかいものにぶつかって、尻餅をつく。瞬間的に人だと思い、謝ろうと顔を上げて言葉が詰まった。
目の前に、巨大な白い毛の塊がある。少女の背より僅かに高い球体のようだ。これは一体何なのだろうと考える間もなく、上部からぴょこんと細長い二つの白色が飛び出した。
球体が向きを変え、赤い双眸がこちらを見る。そこで初めて、その物体が巨大な白兎だと知る。
兎は少女を一瞥し、そのまま歩き出して通りの向こうへと消えていった。少女はそれをただぼんやりと見送ることしかできなかった。
「……疲れてるのかな」
呟き、立ち上がる。スカートの土を払う頃には、今日は早く寝て、明日の朝早くに宿題をやろうと心に決めた。