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製錬技師の解体新書  作者: iReSH
第三章 再起晩成
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episode.38 総力戦

 数日が経ち、俺たちの主戦場は製錬機からフレイの工房に移っていた。

 エリンと製錬機のおかげで一先ず結晶化までは終えることが出来た。


 しかし、このまま”はい、術式を彫りましょう”とはいかない。


 今のサイズのルーン結晶では、想定していたものより二回り小さい。

 だから、ここからは再生結晶化法を使ってルーン結晶のサイズを大きくする。


 恐らく大きさ的に年内はこの作業で潰れることになるだろう。

 サイズを踏まえれば、術式銘彫にはニ、三ヶ月は絶対かかる。納期が来年三月であることを考えると、本当にギリギリだ。


「再生結晶化法には、まず複数の同系統ルーン結晶が必要になる。特にこのサイズとなると通常サイズ400~500といった数が必要だ。まずはそれを用意するところから始める。」


 フレイの工房のど真ん中に置かれた巨大ルーン結晶を目の前にしながら、俺はそれを囲む製錬技師達に聞こえるように話した。


「一応私達が製錬機を使用している間に、うちの従業員達で50個ほどは既に用意してくれたようだよ。」


 フレイの言葉に、俺も先程確認した旨を込めて頷いた。


「魔石や必要な素材はオーツから死ぬほど貰って来た。俺んとこと、ここの在庫も合わせれば、必要数量は足りているはずだ。あとは俺達がルーン結晶をひたすら作るだけだ。」


 そこで俺は周囲を見渡した。

 巨大ルーン結晶を囲っているのは、ルイス、エリン、エルト、そしてフレイのところから手を貸してくれている二級以上の製錬技師達が80人ほど。

 一瞬ではあるものの、彼ら、彼女ら一人一人としっかり目を合わせ、俺は大きく息を吸い込んだ。


「残り450個。ここからは総力戦だ!皆の力を貸してくれ!そして製錬しよう!最高のルーン式エンジンを!」


 俺の声に呼応して皆が返事をしてくれる。

 こんなに声を張ったのはいつぶりだろう。


 気持ちいい。そして何よりワクワクする。


 正直緊張もあった。

 これだけの大人数でやるのは俺自身も初めてだ。その点ではフレイの方が慣れているだろう。

 それでも、今まで基本ずっと一人でやって来た身からすれば、こんな大がかりで大人数でやる仕事も悪くない。寧ろ一人の時よりもやり甲斐を感じているかもしれない。


 俺達は一斉に作り出した。

 何日もかけ、一つずつ確実に、一歩一歩前へ進んで行く。


 そうして気づけば目標の500個にはあっという間に到達していた。


「第一段階はクリアだな。」


「ああ。まさか一週間足らずで作り終わるとは思ってもみなかったよ。」


 実際フレイの所の製錬技師達の腕は想定以上だった。

 流石は国認製錬技師の工房で働いているだけのことはある。特に、手の速さ、延いては効率の良さが段違いだ。


 国認の工房は日夜数多くの依頼が飛び交う。それらを捌くには技術は勿論、速さも必要になる。

 ルイスやエリンも技術は日々着実に上がっているが、効率の悪さはまだまだ目立つ。


 こればかりは経験を積むしかないが、そういった意味でもフレイの所の製錬技師達のレベルは相当に高かった。


「次は第二段階――結晶の融化だ。」


 再び皆を集めてやることを伝える。

 進みが良くても手を止めている暇はない。


「融化は、通常Φ型シリンダーを使って行うが、今回は元の種結晶が大きすぎるから使えない。そこで、堆積型で上塗りするようにしていこうと思う。」


 俺の言葉に、すぐに理解したものは凡そ半数。

 ここまで見てきて、特に突出した技能を持ち合わせている一級だろう者たちだった。

 残りの半数も理解は出来ずとも、その言葉の意味からなんとなく察しはついているようだった。


「要は、皆が作ってくれたルーン結晶を一つ一つ融かして、それを刷毛で塗るようにして種結晶に融化させる。その繰り返しで種結晶に堆積させるように大きくしていくんだ。この方法なら大型の設備を用意する必要がないからすぐに手を付けられる。」


 俺の説明に皆納得はするも、それでも苦い顔を向けた。


「かなり労力がかかるな。それで間に合うのか?」


 皆遠慮しているのか、周りの言葉を代弁するようにフレイが俺の横で突っ込んできた。


「そこは数で押し通す。どのみちそれ用の道具や設備を準備するのにも時間が掛かるし、手に入るかも分からない。」


「時間はかかっても焦らず確実な方法を取るか。まあ確かに手間はかかるがその方がいいか。」


 フレイは頷き、周りの製錬技師にも目を向けては様子を見る。

 そこにはまだ不満とまではいかないが、それで大丈夫なのかと心配そうな者たちがいた。


 このままでは駄目だ。


 それを目でこっちに訴えてくるフレイの様子を見て、俺は集団というものをそこでようやく理解した。


「この方法を取る理由はそれだけじゃない。」


 そこで俺は更に口を開いた。

 こちらの意図を理解してもらうためにはもう少し補足が必要だ。


「この手を使う理由は形の維持にもある。」


「というと?」


「今回のルーン術式は構造が複雑で特殊だ。ルーン結晶の形が崩れていると彫ること自体が叶わなくなったり、彫れても発動しなくなる可能性がある。多数の目がある中で、形を逐一確認しつつ少しずつ固めて大きくしていける。塗る箇所を細かく指定もできるから形の修正もしやすい。」


 そこまで説明したところで、周りの者たちも納得してくれたようだ。

 間に合うかどうかの心配をする者こそいれど、方針に疑問を持つ者はどうやらいなくなったようだ。


「さあ、もうひと踏ん張りだ!!」


 フレイの先導で皆が活気づく。

 その雰囲気と様子に俺は羨ましさを感じるも、素直にフレイに感謝した。



 新年まであと三週間。

 疲れもだいぶ溜まっているが、ここからはノンストップだ!

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