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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
91/100

そして迎えるエンドロール、序

 山根麻衣の歌う「THE REAL FOLK BLUES」が部屋に流れていた。

 カウボーイ・ビバップの、何話目のエンディングなのかはわからない。


 猫はベッドで寝そべった状態で、目を瞑っている。心地よさそうにも見えるが、じっと回復を待っているようでもある。息に合わせて、体がゆっくりと上下していた。どうやら眠ってしまっているようだ。


 途中、ぽつぽつと降り出した雨を気にして走ってきただけなのに、情けないことに息がすっかりあがってしまっていた。そういえば最近日課のウォーキングをサボりがちだった。なにかれと言い訳をつけて長続きしないのは自分の悪いクセだ。


 なあ、と最初に声をかけてきたのは猫だった。チキンの匂いで起きたのか、はたまた僕のした荒い息切れのせいで起こしてしまったのか。

 「このカウボーイ・ビバップというアニメは本当に面白いな」

 そうだろうとも。正直僕が一番好きなアニメだ。

 「スペース☆ダンディみたいに第二期はないのか?」

 ない。

 ない、だと?これだけ面白いのにか?劇場版もあると聞いたぞ。

 「劇場版はあるけど第二期はないんだよ」


 猫がどこまで作品を見たのかわからなかった。だからそれ以上の言葉を呑んだ。

 主人公が死んで物語が終わるから、永遠に第二期は来ない。

 そう言えたら楽だが、ネタバレはご法度だ。第一、そんなことを僕がやられたら確実に怒り狂う。

 中古本の表紙見開きにある登場人物一覧に、小さく手書きで「←コイツが犯人」と書き込まれた海外小説を読まされたときの気分を、よもや猫とはいえど他人に味わわせるわけにはいかない。

 

 僕は紙袋からチキンを、ビニールからビールを出してフタを開けたうえで猫に渡した。

 「おい」

 「なんだよ。ビールのフタはちゃんと開けたろ?」

 「せっかくだ。小皿かなにかを持ってきてくれないか。このチキン、紙包みでないうえに切り取りもない。食べにくくてかなわん。それにおまえのその香ばし醤油味も食ってみたいしな」

 なるほどな、と思う。

 ホットショーケースに入れておらず棚に置く場合だと、ほかのコンビニのようにすぐに食べられる仕様にはなっていないのか。紙袋には店員のお姉さんが入れてくれた手拭きと紙ナプキンはあったが、これは食べる前と食べた後に必要なもので、今すぐ食べる場合には不向きだ。

 まあ、ビールが足りなくなるかもしれない。

 「ちょっと待ってろ」と言って階段を降りる。


 ふん、意外だな。猫は言った。久方ぶりに(こいつ)がした満悦の表情を見た気がした。

 「意外って、なにが?」

 弛んだ顔を見られたかもしれないと思い、顔を整える。

 「これだ。美味いじゃないか。私にとっては揚げ鷄以上に、美味い」

 さっきまで食いにくいとか、なんとか、文句をたれていた同一人物(同じ猫)とは到底思えない顔だ。


 ふ。


 笑う。褒めてみたり貶してみたり、忙しい奴だよ。


 なあ。


 切り出したのは、また、猫の方だ。


 「今度は、なんだよ。もう鷄ならないぞ?お前の口にしてるそれで最後だ」

 皿にはまだ香ばし醬油味が残っているが、これは半分にした、僕のだ。


 死んで、終わるのだろ?


 なぜか、ドキッとした。


 「カウボーイ・ビバップのことだ。どうせ貴様のことだからネタバレがどうとかいう理由で口ごもったのだろうが、その態度でバレバレだと何故に気づかないのか私の方が疑問だ。隠すくらいなら口に出してハッキリ言ってみろ。その方が、」


 その方が?


 「その方が、覚悟ができる。私も作品に集中できるというものだ。恐らくに、あのビシャスとかいう白髪と刺し違えでもするのだろう?」


 猫は言った。隠すくらいなら、口に出してハッキリと言ってみろ、と。


 それは、僕が果たして口にしていいものなのか?

 もちろんこれは、ビバップの話じゃない。

 

 お前、もしかして、もう死ぬんじゃないのか?



 口が、そう勝手に動いていた。


 

 


 



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