猫の恋、の1
「お前は輪廻転生を信じるクチか?」
この猫は唐突に難しい言葉をぶち込んでくるから、時折対応に困る。
「映画か?千葉真一の」
「それは魔界転生だ。違う」
「じゃあ必殺技だ。北斗の拳の」
「それは無想転生」
まあ、輪廻転生くらいはなんとなく理解している。解釈に誤りがなければ、だが。
「人は死んでも生き返るって話?」
「まあ、だいたいそうだ。人に限らず、命あるものは、ということのようだが」
ふうん、と相槌を打つが今一つ二つ理解は及んでいない。そもそもどうしてこんな話になったのか理解に苦しむところでさえある。
「宗教にでも目覚めたのか?」
馬鹿をいえ。猫は鼻を鳴らして目を閉じ、プイっと宙に顔を向けた。
「ハードストレイキャッツの水晶がそんな話を熱心にしてくるので、つい気になってな」
なんて?
ハード、なに?
ストレイキャッツのスイショウ?
「バンドかなにか?」
馬鹿をいえ。猫から二度目のダメ出しがされる。今度は「これだから人間種という奴ばらは」などとオプションまでつく始末だ。
「野良猫のグループだ。この辺りだとほかにブラックサンズあたりが近いが、故あってハードストレイキャッツの庇に身を寄せている」
急にどうした、とは思ったものの、人間に社会があるように猫にも社会的なつながりがあるのかもしれないと強引に自分を納得させた。
「それにしてもストレイキャッツって。なんで横文字」
それなのに庇って。猫とストレイキャッツの間に多少なりの齟齬があるのかもしれない。
「問題はそこじゃない」猫が話を急いた。
「わかってる。魔界転生だろ?」
猫の目が冷たい光を帯びてこちらに向く。冗談はもう必要としていないらしい。
「輪廻、転生だ」
猫の目は、真剣そのものだ。