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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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戦いすんで、日が暮れて、の2

 翌日、ほかに目立った注目ニュースがなかったのだろう。

 後で聞いた話だが、アニマル・キラー模倣犯グループ逮捕さる、のニュースは地方放送局を中心に、比較的大きく取り上げられたらしかった。

 僕はといえば、疲労と全然ささやかじゃなかった祝勝会の余韻が後を引いていて、昼近くまでベッドから出れずにいた。

 どうにか身を起こすと、今度はひどい筋肉痛に襲われ、いい歳をして軽く悲鳴を上げる。


 くがねはキッチリ朝七時には目を覚まし、朝食を家族とすませた後、外出していったという。

 まさか、もうここでの用が済んだから出ていったとか、と僕が大きな声を出すと、

 「公園に様子を見に行くって言ってたわよ」と、くがねの黒服を縁側に干しながら、母親が苦笑いした。


 そういえば、猫は?


 さあ、くがねちゃんと一緒だったのは風彦ちゃんだけだったわよ?そうそう、風彦ちゃんってもとから灰色だった?私もっと緑色っぽかったと思ったんだけど。どう見ても灰色なのよねぇ、今朝見たら。母さんもう老眼かしらね。


 光の加減じゃないかな、と答えて再び二階へ上がる。自室に猫の姿はない。さんざ飲み散らかした跡と、食べかけのチーズがあるくらいだ。


 ベッドに腰を掛け、大きく息をついた。

 

 そろそろ本格的に、仕事探さなきゃな。

 市県民税や年金、健康保険料の支払い通知が、テーブルの上に開封もされず置きっぱなしになっていた。

 山奥に籠り、自然の恩恵のみに頼った完全自給自足をしたとしても、これらは逃れられない支払いだと聞いたことがある。


 息をついているだけでも金がかかるなんて、この国はどうかしてる。


 とりあえず家を出て町をぶらつくと、足は自然に公園へと向いていた。公園は思ったよりも静かで、好天もあって子連れの主婦の姿も多かった。手近のベンチにかけて人の行き交いを見ていると、昨日までは見られなかった妙な光景に気づく。

 ホームレスの人たちに、道行く人が挨拶をしている。

 それはとても奇妙で、僕の目からはどうしても非日常のものに映った。

 ホームレスの一人が僕に気づいて軽く手を振ったのが見えた。昨日会ったうちの一人だろう。軽く会釈を返す。

 

 彼ら、今度ここの公園の管理をまかされるらしいぞ?


 くがねと風彦が、いつの間にかとなりに来ていた。くがねは、なんというかとてもらしくない、ジャージ姿で、いつもの緊張感がカケラも感じられないほどにラフだった。

 風彦は母親が言っていたように、すっかり灰色のただの猫になっている。


 でも、経緯がよくわからないな?くがねを見やる。


 昨日助けた猫の中に三毛のメスがいただろう?その飼い主というのがどうもここの市長だったらしくてな。公園の大立ち回りで猫を庇って戦ったホームレスたちを管理員として雇用する動きがあるらしい。明日の新聞に詳しくは載るだろうと桃子が言っていた。今後、市の取り組みとして段階的に他の公園にも広めていく計画だそうだ。


 へえ、随分と手際がいいね。


 「言ったろう?表の連中に協力者がいるんだって。それに、市長選も近いみたいだしな。増加傾向のホームレス抑止も含めて株を上げたいというのもあるんだろ」

 「それは、聞くんじゃなかったかな」

 違いない。世の裏事情を感じるものな。互いに、笑う。


 ところで、と、くがねは改まる。静かな口調が、語らずとも次の台詞を予感させた。僕がくがねの方を見なかったことで、察したのだろう。言葉少なに、


 「明日、この街を出る」と告げた。


 出ようと思う、ではなく、出ようと思うがどうだろう、でもない。

 くがねの言葉は、断定的だった。


 そう、寂しくなるな。


 気の利いた言葉のひとつも出ない。

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