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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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決戦、の10

 くがねと風彦の姿を見つけて駆け寄ったとき、事態が停滞ないし悪化したのだとは、すぐにわかった。


 合流までの、このほんの短い間に何があったのか僕には知る由もない。どうにか状況として知り得たことは、リーダー格を追ったはずの(やつ)と連れ去られたミイコがこの場にいないことと、エンジンがかかりっぱなしだった車がないこと、それと、殺気を発して抑えることをしないくがねと風彦が身じろぎひとつしていないことだ。


 おびただしい量の血液が、この場所に来るまでの道程において見ることができた。黒い車が立ち去ったであろうこの駐車場においても、血だまりといって差し支えのないほどの惨たる痕跡が残っている。


 すまない。あたしが来た時にはもう車はなかった。嫌な臭いも、車に乗られてしまって辿れない。このあたりに気持ちが悪くなるほどに充満しているのに、行く先すら、あたしは追えない。

 「役に立てず、すまない」と、くがねは悔しさを露わに俯く。

 そんなことはない、と思うが、言葉にはならない。もっと僕が機転を利かせて上手に立ち回っていれば、くがねにこんな惨めな思いをさせずにすんでいたのかもしれない。

 いや、そもそも個人のやれることには限界があるのだ。

 ほうれん草を食べれば即座に百人力になれる海兵だって、事の全てを常に完璧にこなすことは困難だろう。それ故に、責任の所在を個人に求めることは出来ないし、それをしてはいけないのだ。

 言葉をどう紡げばいいのか、考える。

 このままだと、これから口をついて出る言葉の全てが、未来に対してなんの生産性もないものになってしまう気がする。


 詰まるところ、誰の責任でもないのだ。大事なのは結果についての議論ではなく、これからどうするか、だ。


 くがねの腕の中に、風彦がいた。暗がりだからそう見えるのかもしれないが、その時の風彦は、普段の緑色ではなく、灰色の猫に見えた。ぐったりした様子からかなり疲弊しているように見える。


 『死馬すらかつ、これを買う。況んや生けるをや』そんな中国の故事が過ぎる。


 猫でさえここまで頑張っているのだ。人間が諦めてどうする。


 使い方を間違えているかもしれないが、こういうのはノリで、雰囲気だ。トドのつまりそう言いたいのだ。


 「大丈夫。多分、まだ終わってない」


 スマートフォンの画面を、くがねたちに向かって見せる。画面の中で明滅する光は、(やつ)の現在位置だ。


 これって。

 くがねが目を大きく見開いた。


 (やつ)は今、『長靴を履いた猫』ならぬ、『足袋を履いた猫』だ。猫の足袋の中には、くがねから預かった銀色のタグが入っている。


 よくやった!でも、ここは何処だ。いや、存外近いぞ。


 「『あっちのでかい公園』だ!」


 くがねと僕の台詞が、被った。

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