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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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決戦、の5

 警察が来る、という言葉は、想像以上に事態を動かした。

 覆面の一人が「さすがに今、警察はヤバいって」と口走ったことを皮切りに、顔を派手に引っ掻かれた覆面も挙動不審にふらついた動きを見せた。リーダー格が舌打ちして周囲を見回す。まだ警察の気配はしないものの、昨日の今日で騒ぎになることを望まない点ではホームレスも彼ら同様だ。

 リーダー格がカラシニコフをホームレスの方へ向け、斉射した。

 段ボールの盾に隠れたゼン爺たちに弾着はなかったが、思った以上の威力に段ボールが派手な音を立てる。

 しまった!(にゃあ!)と、ひと鳴きするより早く、リーダー格の男がゼン爺たちの囲みを一足飛びに駆け抜ける。

 すり抜けざまに、ミイコの体を空き手の右で掬うようにして抱えこんだのが見えた。

 「キーマン!クールガイ!ミイコが攫われた!」

 ほぼ同時に駆け出した覆面の仲間二人が邪魔で、二匹からはミイコが視認できない。

 しかしリーダー格が向かう先にはやつ(同居人)がいる。

 「そっちに行ったぞ!」と思わず人語で叫ぶ。

 任せろ!声が聞こえたが、息を切らしている運動不足の男よりもリーダー格の黒づくめの方が圧倒的に動きが良かった。すんでのところでパスされるのが見えた。

 「ええい、情けない」

 普段からビールばかり飲んでゴロゴロしているからこうなる!

 猫の走る速度は人間に比べて速い。百メートル走でおよそ七、八秒だ。もっとも持久力はないから一度ダッシュしようものなら少しばててしまう。

 暗闇を見通す夜目が、逃走するリーダー格を捉えていた。公園の中に流れる小川の浅瀬を突っ切って、ふたつある小山のうちのひとつを横目に通過し、駐車場の車へ駆け込むつもりなのだろう。

 小川の浅瀬で足を取られれば十分に間に合う。

 同居人の傍へ駆け寄る。

 「()()を寄越せ。その後、私を川向うめがけて投げろ」

 「正気か!?そんなに遠くまで投げられないぞ?」

 「川を飛び越えられればいい!」

 無茶を言う、ぼやきながらも、同居人が体を持ちあげた。

 視界が一気に高くなる。

 そうだ。お前が思ってるいるより、人間というものは有用で有能な面が多くある。

 こうして抱えられて走られた時の一歩のスタンスときたら(我々)の何倍もある。力だって比することも適わないほどに強い。

 リーダー格の男はこちらの予想通り、小川で足をとられていた。

 「アムロだってガンダムでアクシズを押し出したのだ。貴様も猫の一匹くらい飛ばして見せろ!」

 

 気楽に言ってくれる。

 僕はありったけの力で猫を対岸へと放り投げた。すっ飛んでいく猫は、後ろ足に緑の靴を履いている。


 「足袋を履いた猫」なんて、普通ならとても様にはならない。

 が、ルビコン川を渡らず、その飛翔した猫の姿は、英雄ペルセウスもかくやと言わんばかりの風格でもって夜の公園を舞った。

 

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