決戦、の4
黒づくめの三人は、共通して、つばなし帽にゴーグル、顔一面を布で覆い、底の厚いブーツを履いている。服装はそれぞれ微妙に異なっているが、リーダー格は黒のフェイクレザーを着、細身にゆったりめのカーゴパンツを合わせていた。
レーザーサイトを装備したカラシニコフの電動ガンを主武装に、ナイフ、小銃くらいは隠し持っていそうだ。
とりあえずポケットを多く持った男を襲い、顔に残るほどの傷痕をくれてやった。
キーマンとクールガイもそれぞれ手傷を負わせはしたものの、相手の装備の前にいったん距離をとった。
「ミイコ、無事か!」
大丈夫、ゼン爺たちが助けてくれた。ねえ、この人たち、「アニマル・キラー」なの?
「わからない」
だが、まともな連中でないことだけは確かだ。
ゼン爺たちホームレス勢五人、猫三匹で相手を挟み込んでいる。身バレ防止と跳弾よけのための薄く色の入ったゴーグルは、この暗さにあっての装備としては的確とはいえない。かえって視界と視覚を狂わせる。
「猫たちを守れ!」ゼン爺の声が張る。
装備による不利は否めないが、三匹の猫の参入で状況は変化した。
「単に弱者を一方的に嬲る」という構図が「追い詰められた鼠が猫を噛む」へとシフトする。
ゼン爺たちにとっても、希望が生まれた瞬間だ。
おいおい、冗談だろ。大人しく狩られてればいいものを。調子づいてさあ。
どす黒い雰囲気をもって、リーダー格の男が笑いだす。
「こんな住宅地のど真ん中で、そんなに声を張り上げていいのか?夜中にホームレスが騒いだなんてことになったら、困るのはいったい誰なんだろうなあ?」
電動突撃銃を真上に向けて、引き金を引く。
タタタタタ。
静寂に包まれた公園に突撃銃の軽快な音が響く。
「テレビ慣れしたやつらにはなあ、こんな玩具の音でも機関銃の音に聞こえるんだってよぉ」
再び銃を中空に向けて引き金を引く。
タイミングなのか、それとも本当に銃の音と勘違いした住民なのか、音につられるように家の明かりが灯る。それを確認して、三度銃を撃つ。
「猫を渡してくれりゃあ大人しく立ち去ってやってもいいんだぜ?俺たちだってなにも荒事が好きなわけじゃねえんだからさ」
顔を覆う覆面の下には下卑た笑いが浮かんでいるに違いない。言葉をかろうじて選んで交渉のまねごとを続ける。
「仮にお前たちに猫を渡したとして、お前らはその猫をどうするつもりだ?」
姿勢を低くし、段ボールを盾がわりにしつつ、ゼン爺が問いただす。
そんなことを税金もロクに払ってなさそうなホームレスごときに話す筋はないんだがなぁ。
「猫好きのバカ女の玄関に吊るしてやるのさ。全部の足を釘で打ち付けてな!最高のオーナメントをプレゼントしてやるのよ!わかったらさっさと後ろのメス猫をこっちによこしやがれ」
やはりろくでもない男だ。思わずためいきが出る。
おそらくだが、仮にミイコを引き渡したとして、こいつらが素直にゼン爺たちを無事に済ますことはないだろう。こういう輩は決まって、自分に少しでも楯突いた存在を許したりはしない。
それにしても、やつはなにをやっている。途中まで一緒にいたのだから、この場に居合わせない理由がない。まさか臆病風に吹かれでもしたか?
いや。
たかだかひと月程度の付き合いだが、これだけははっきりとわかる。
やつはこういった瞬間では、絶対に逃げない。
どこからか声がした。
「そこの悪党ども!たった今、警察を呼んだ!もうすぐこの公園に警官が大挙して押し寄せるぞ!」
同居人だ。ゼン爺たちの後方から、息をきらせて走ってくる姿はひどくみっともない。今にも止まってしまいそうなほどな速度でこちらに向かってきている。右手に掲げたスマートフォンが通話中ででもあるのか、光っている。
円谷の特撮のワンシーンのようだが、スプーンとベータカプセルを間違って変身しようとした早田進隊員のようには決まらない。
「カッコ悪い」
ミイコがげんなりしたように呟いた。




