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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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決戦、の3

 公園内で揉め事が起こっているのは、近づいたときにすぐにわかった。

 しかし午後九時に近づいた公園周辺は、まだ事態を飲みこんではいないようだ。いつもと変わらず静謐然とした住宅街に目立った動きはない。

 事件が起こって間もないのかもしれない。

 公園は、中の街路に沿って灯りがついているだけで、それ以外の場所については公園外周の街灯照明だけだ。野球のできる練習グラウンドが北側にあり、街路は南東の端から西へと抜ける一本だけで、その道だけは明るく歩きやすい石畳だが、ほかは見通しの効かない暗闇に覆われている。

 「ここからじゃ、よく見えない」

 東側の駐車場には黒のワンボックスが一台、エンジンをかけたままの状態で放置されていた。車幅灯もついていないその車はスモーク張りになっていて、危うくぶつかりそうになる。

 猫がその車を見て、チッと舌を鳴らした。

 「にゃあ」と鳴いたのは、クールガイだ。

 『南だ。ミイコの声がしたと言ってる』

 迂闊にも明かりを持たず出てきたことに気づく。夜に出歩く際にも、普段から明かりなどは持たないことがここにきて災いした。

 「くそっ!」悔やまれる。明かりを持たないまま、公園を南下しなければならない。

 かまわず藪に突っ込む猫三匹。

 「こちとら夜目が利かないんだぞ」仕方なく、追って、藪に身を投じる。

 

 公園の街路の端っこで、複数の男たちが言い争っている姿が見えた。丸っこい綿棒のような白街灯の光がかろうじて届く位置だ。 

 昨日聞いたパシュッ、という炭酸の蓋を開けたような音が、連続して鳴り響く。同時に、ギャッ、という声。猫の、それも雌の出せる声ではない。明らかに成人した男性のものだ。次いで、若い男の品のない嗤い声が公園に響いた。

 藪を抜けた先に浅瀬の川が流れていた。猫たちは川の中に配された飛び石の上を器用に渡って突っ切っていくが、僕には同じ真似は適わない。少し東に戻った先の橋を迂回する。


 「あいつら、(くがね)が言ってた『赤目』とかいう連中じゃないか?」

 先頭を切っていたクールガイが叫んだ。人数は三人。それぞれが赤い光を放つ得物を手に持っている。

 「やられてんのゼン爺たちじゃねえか!」キーマンが吼える。

 ホームレスの集団が、的になっていた。ゼン爺やシゲさんが段ボールを盾に、抵抗しているようだ。

 「ミイコもいる」

 ゼン爺たちの後方で耳をたたみ尻尾を太くしたまま警戒して唸っている。

 

 AKМ改良型カラシニコフか。ランボーⅢ怒りのアフガンでシルベスター・スタローンが使った銃だ。名のある銃をこともあろうに動物や人間を虐待するために用いるとは。

 

 「愚劣な奴ばらめ!」


 背後から最も後方にいた男めがけて襲いかかる。

 「吾輩の爪はウルヴァリンのそれよりも鋭いぞ!」

 ゴーグルとマスクの隙間に爪を走らせる。クールガイとキーマンも続いた。


 「な、なんだ!?」急襲に男たちの統制が一瞬乱れる。

 「お前ら!」ホームレスたちが加勢に気づいて態勢を立て直す。


 「いったい、どこから湧いて出やがった!」リーダー格の男が叫んだ。黒づくめで素性を隠しているつもりだろうが、鋭敏で知られる猫の嗅覚は騙せない。


 こいつは、知っている奴だ。



 

 

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