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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
70/100

決戦、の2

 「クールガイ。お前、なんでこんなところに」

 その言葉に、街灯の下、クールガイは表情を曇らせる。

 「一旦逃げて、戻ったら、ミイコがいなくなっていて。探しに出たところだ。お前たちこそ、自宅待機中なはずだろ」

 「キーマンからお前が飛び出したって聞いて、探しにきたんだ。……って、えぇ!?ミイコがいなくなったって!」


 もちろん僕の耳には猫たちがしきりに「にゃあにゃあ」と鳴いているだけにしか聞こえないが、(同居人)のする同時通訳を間に挟むと不思議なことに、「にゃあにゃあ」が『にゃあにゃあ』に聞こえてくる。

 だからといって洋画の字幕のようにはいかない。緊迫した内容だと伝わってくる程度のものだ。

 

 「クールガイの代わりに今度はミイコが行方不明か」

 なかなか上手くはいかない。クールガイの予想だと、ミイコは公園に一匹(一人)で向かったのではないかということだった。しかしここまでの道のりで、僕たちはミイコと遭遇してはいない。

 「猫には各々の好んで使う通り道がある。ミイコがその道を使ったのなら、こちらと出会わなかった説明もつく」猫は冷静だ。

 クールガイを加えて公園へと戻る。

 「クールガイと会えただけでも僥倖だろう。少なくとも多重遭難だけは避けられたのだから」


 猫たちの方が自分よりも危機感を持って事に当たっている気がした。

 確かに殺されているのは猫たちだ。身の危険を僕なんかよりも強く感じるのは必定かもしれない。

 同じ人間が、なぜ猫などの動物を虐げ、殺すのか。それは(ひとえ)に彼らが人間よりも生物学的、立場的に弱い存在であると信じて疑わないからだろう。

 『人語を話す猫(同居人)』と出会い、猫たちが自身で話すことができないにせよ、こちらの言っていることをある程度理解しているということを知らなければ、あるいは自分もまた、(彼ら)は人間よりも弱い存在であるという認識を続けていた筈だ。

 だけど僕は、知ってしまった。

 猫たち(彼ら)は弱い存在でもなければ、卑下されたり、何者かによって被害を被っていいような存在では決してない。

 同じ人間が犯している愚行のために、これ以上猫たちに危険があってはならない。事件解決のために、剣くがねや同じ志を持った情報提供者たちも力を貸してくれている。今は自分にできることをするべきだ。

 今度は()()()とは違う。まだ薄ぼんやりとはしているが、近づいている危険だけは明確に感じる。自分自身の危機意識を研ぎ澄ませてやる。鼻息は自然に荒くなる。

 『なすべきことをなせ』もはや洋画定番の台詞がテロップ状に去来する。

 

 そうだ、たとえ戦力にはならなくても、僕にだって警察に通報するくらいのことはできる。

 

 やがて公園が見えてきた。少し騒がしい。肌が泡立つのを感じる。これは武者震いなのか、それとも単に僕がチキン(弱虫野郎)なだけなのか。


 その答えが近づいている。

 

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