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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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決戦、の1

 くがねと風彦、僕と猫、それとキーマンで、二手に分かれてクールガイを探すことにした。土地勘の希薄なくがね達は、この家から溜まり場にしている公園までの道を、僕たちは公園からミイコの家までの道のりをそれぞれ辿り、最終的に公園でおちあう計画だ。

 念のため、携帯の番号をくがねと交換しておく。くがねは着替えに時間がかかることもあり、僕達の組が先行して公園へと向かった。

 昨日よりもまた空気が一段、冷めた気がした。猫と初めて会った頃は深夜過ぎでも暑くて、耐えきれずビールを買いに行った。あれからもう一カ月が経とうとしている。相変わらず就職戦線に関しては何の進展もないままだったが、日々退屈もせず、無駄に悲観的にならずに済んでいるのには、少なからず(こいつ)の影響があるのだと思う。

 「何を妙な顔でこちらを見る。よもや本気でその靴を私に履かせようなどと考えてるんじゃないだろうな?」

 母親が作った洒落の効いた猫用の靴をなんの気なしに出がけに手にしてしまっていた。自分では、くがねが持たせてくれた()()だけを手にしていたつもりだったが、手元にはなぜかどちらも持ち合わせていた。落とすことを考えて、くがねから預かったタグを猫用の靴にねじ込む。

 「そんなに履きたければ渡すけど。お前の場合、後脚だけに履いたら、そのまま『長靴をはいた猫』になるな」

 「馬鹿をいえ。その丈ならせいぜい『足袋を履いた猫』にしかならんだろうが。まったく()()にならん」

 同行するキーマンが「にゃあ」と、ひと鳴きした。目の前に公園が見えてきていた。


 公園の真横の歩道を横目に、とりあえずミイコの家を目指す。後発のくがねたちが、こちらが往復する間に公園内を見回る手はずになっている。くがねが服を着替えにかかる時間を考えると、じっくりクールガイを探して公園まで戻っても、もしかするとそう待たせない時間に公園で合流できるかもしれない。

 ミイコの家を知っている猫はキーマンだけだ。キーマンを先頭に据えて歩き出す。

 

 夜の住宅街は不気味な静けさがあった。ブロックごとに配置された街灯は俯いた女のような姿で、青白く足元だけを照らす。人気はないのに家々から人の視線のようなものがまとわりついてきて、それがどうにも気になった。

 自分にも思い当たる節はある。ふと見た窓の外に人影があると、どうしてかつい目がいってしまう。通行人だったりウォーキングに励む老人だったり、どの場合もただの通りすがりなのだが、あれもよく考えてみると見られた方はいい気分ではないだろう。

 夜は人影を怪しく見せるのかもしれないと猫に言ったことがあった。

 「馬鹿馬鹿しいにもほどがある。自意識過剰か。自分に確固たる自信がないから人の目などが気になるのだ、たわけ。そんなだから就職先もろくに決まらんのだ」その時そう言い放って猫はそっぽを向いた。呆れてなのか、それとも過去に何かあったからなのか、猫の口は三割増しに悪かった。


 住宅街の中でも特に閑静な場所に入ると、特に環境整備の行き届いた区画に行きあたった。大通りにも引けを取らない幅の道には両側にしっかりとした歩道がついていて、こころなし歩道自体も広めに思えた。並ぶ家のどれも、雑誌に載せてはばからない敷地と建物で、それがずっと先まで続いている。

 「おまえの住んでいるところとはえらい違いだな」と、猫がひやかす。

 新興住宅地域ということもあるが、このあたりは地域でもそこそこ名の知れた人物や、ある程度以上に生活水準の高い家庭が住んでいる。そのためか、視界を損ねる高さのあるマンション類は近所にはなく、気にならない程度で傾斜になっているこのあたりは、場所的にも一段高みにあった。

 「こんなところに住んでいるとすれば、ミイコの飼主は相当なものだぞ」

 なぜ雑種を飼っているのか解せない。このあたりをざっと見渡すだけで、血統書付きの動物以外は立ち入りが禁止されているんじゃないかと思えるほどだ。

 そんなことを考えていたら、「にゃあ」と声をかけられた。

 

 明るめのシルバーグレイの毛並みに街灯があたって、黒模様が濃く映し出される。

 サバトラの、クールガイだ。

 

 

 

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