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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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嵐、の18

 最初にその音に気づいたのは風彦だった。

 時間は午後八時を回った頃合いだ。

 「誰か外にいる」発したのは、くがねだ。風彦の言葉をこちらに伝えたのだ。

 窓を開けると、夏にしては涼しい風が吹いていて、差し込んできた風が、部屋のカーテンをくるりと内側に巻き込んだ。

 「なー」と長く呼びかける鳴き声がした。街灯と部屋から漏れる明かりに、ハチ割れた猫の姿が照らされる。キーマンだ。

 「探したぞ。およそ家の見当はついてたんだが、人間の家は塀で囲われると存外わからなくなるな」

 「どうした。夜は出歩かないようリーダーからの指示があったはずだろう」

 それは、わかったうえで出てきている、とキーマンは言った。特徴的なカギ尾(カギ尻尾)が揺れる。


 玄関からキーマンを招き入れて、そのまま二階の部屋に通した。部屋の様子をひとしきり眺め終えると、自分のすわりやすそうな場所をみつけて、ゆっくりと座る。六畳間に人間二人と猫三匹がいる光景は、なかなか窮屈だが、趣深いものがある。

 「こっちに、クールガイが来ていないかと思ってな」キーマンが切り出した。

 「クールガイ?来ていないが」首を傾げる。公園で別れたきりだ。

 なにかあったのか?言葉を繋げたのは風彦だ。

 「あいつ、逃げ出したんだ」

 クールガイは、事件が落ち着くまでミイコの家に滞在するはずだ。

 「逃げた?」

 「ああ、だが、仕方のないことだったのかもしれん」

 どういうことだ?問い詰めると、キーマンがふうぅ、と息を静かに吐いた。

 「ミイコの家の連中が、エサを食べている最中のクールガイを、いきなり後ろから捕まえて……」

 捕まえて、どうなったんだ?

 風呂に入れようとしやがったんだ。しかも、無理矢理にだぞ?カリカリを食ってる最中に!まあ、ミイコのところにはじめて行ったとき、俺もやられたんだが。キーマンは眉をひそめた。

 「野良にいきなりあの仕打ちはない。まあ、俺のように不動の精神を持つ猫ならまだしも、普通のヤツは爪でひっかいて逃げ出すレベルだ」

 「クールガイもそうしたのか?」

 「いや、ヤツは『一口でも飯を食わせてもらったからには、その相手に怪我はさせられねえ』とかカッコいいこと抜かした後、爪をひっこめた拳で二、三発、正拳突き(猫パンチ)をして、家主がひるんだすきに逃げ出した」

 キーマンが不動の精神を持ちあわせているかどうかは別にして、これまで一度も人間に飼われることなく野良を通してきたクールガイの気持ちはわかる。動物愛護センターの捕物同様、エサで釣る謀り事というのは、猫にとって生き死ににかかわる場合が多い。それがもとで人間不信に陥る猫は少なくない。


 (同居人)の説明で事情は把握できた。昨日、事件のあった公園で僕が目撃したものが犯人たちであったなら、もうすでにやつらの犯行時間帯に入っている。くがねの方を見ると、彼女は真剣な面持ちで頷いた。

 「こういった愉快犯は、傾向として犯行に間を置いたりはしない。人間相手であるならもう少し考えもするだろうが、猫や犬を自分より格下だととらえる連中はマスコミがヒートアップすればするほどそれを面白がって、連続して事件を起こす。犯人が近くにいる以上、今日は危ない日だと、あたしは思う」


 「クールガイを探しに行こう」

 その場の全員が、頷いた。

 

 



 

 

 

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