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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
67/100

嵐、の17~僕~

 洗い物を片付けて二階に上がると、猫たちがロマン・ポランスキー監督の「ローズマリーの赤ちゃん」を見ているところだった。

 角をはやした怪しげな影が窓に映っているところをみると、物語は最終盤のようだ。

 「ずいぶん古そうな映画ね」

 六十年代の映画だ。今見返せば、古くも感じるだろう。そんなことよりも、こういった映画がまさか猫に需要があるとは思わなかった。

 「別に好きで見ているわけじゃない。風彦がどうしても見たいというから付き合ってやっているだけだ」

 風彦が「にゃあ」と気のない返事をした。そうじゃないことくらいは、その顔を見ればわかる。

 

 「そんなことより、今後の対策を考えよう」

 くがねが僕のノートパソコンを開いて、ハンターサイトの更新を確認し始めた。

 今朝確認した時よりも情報も賞金額(リワード)が格段に上がっていて、情報の数も桁ひとつ増えていた。

 「こういうのは、ガセも多い。迂闊に信用したばかりに足をすくわれる場合だってある」

 慎重に情報を見比べるくがね。これまでの経験則から、必要な情報だけを直感で、的確に抜粋していく。

 「誰かと組んで仕事をしたりはしないんですか?」

 「顔見知りか、余程のことがないかぎりは……」

 しないな、と、くがねは言った。横顔だけだったが、一瞬、隙間のあいた会話の間に曇った表情がちらりと見えた。 

 サイトで今回の事件を詳しく提供していた人物の情報を、くがねは丹念に読み返していた。

 写真や、現場状況が細かく調べあげられている。以前見た時も思ったが、この情報はあまりにも精緻が過ぎる出来だ。くがねは明言を避けてとぼけたが、あきらかに調査に関わった内部からの情報であるように思えた。

 こちらの視線を気にしたくがねが、じろりと睨んだ。

 「言っておくが、桃子からの情報じゃないぞ?」

 あまりに詳しすぎるでしょう、と僕が訝しがると、くがねは「桃子じゃない。が、あたしたちに力を貸してくれるのは、桃子みたいに表の連中が多いのは事実だ」とこぼした。

 「表の連中?」

 ああ、くがねは頷く。

 「自分たちの非力は知ってるということだろう。余程のやつじゃなければ、動物の殺される姿を間近で見たいなんて思わないものさ。いかれたヤツは赦せないが、自分たちの立場ではどうしようもないから協力はしてくれる。あたしたちみたいなのには有難い話なのさ」

 それは利用するということで共通利害を得ているということなのだろう。

 「どうしてもっと、何事も直球で進めたり出来ないんでしょうね」

 「さあね、変化球が好きなんでしょ。知らんけど」

 大事なことを、くがねがまた隠したのがわかった。でも、以前よりかは彼女の本丸の景色が見えた気もしていた。

 

 部屋がノックされて、母親がくがねの着替えを持って現れた。

 「え。もう洗濯してくださったんですか」

 「女の子は何時も身綺麗にしていなきゃでしょう?」

 それと、そう言って母親はポケットからなにかを取り出した。

 それは小さな靴だった。足首を紐で締めて固定するタイプのもので、やわらかめの生地で作られている。ご丁寧なことに、足裏に簡易的なゴム底までついている。

 「猫ちゃんにどうかしらね?」

 緑と黒の四足分。いや、猫だから二匹分か。

 「前から思っていたんだけど、今時期のアスファルトって熱いでしょう。靴でもなくちゃ火傷しちゃうかと思って」

 あんたのお母さん面白いこと考えるわね、と、笑いたいのを必死に嚙み殺した、くがねがいる。

 着眼点は面白いが、これじゃ猫の持っている本来の機動力は半減する。靴を履いた猫なんて、そもそも聞いたことがない。爪だってこれじゃ出せない。

 「ほら、長靴をはいた猫って、いたでしょう?」


 だからって、これはさすがにない。




 


 

 

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