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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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嵐、の11~風彦~

 予感というものは、何事かの良し悪しが後から明確になっただけの結果論でしかない。後づけであれば、どうとでも言いようというものはある。

 朝、風がやけにざわついて吹き、髭の先に嫌な感じがしても、それは気のせいでしかない。オカルトめいた不確実なことでその日一日の糧の質や総量に差が出たことはかつてなかった。


 だからこの公園に越してきたばかりの占い好きのまだ若い黒猫が、「あなた今日死相が出てるわ、くれぐれも雨に当たらないように気をつけて」と言ってきた時も、鼻で笑った。


 今日のこの地域の降水確率は一割未満だ。今朝、ラジオがそう言っていたのを聞いた後だ。オカルトなどより統計だ。餌場だってそうだ。人間はそうそう建物ごと移動したりしない。人間にとって安全な場所で猫にエサを提供するという習慣は、人間のするルーティンワークとしてはかなり優秀な思考で行動だ。

 だから公園で食事が期待できないときは、わざわざこちらからエサをくれる場所に出向きもする。

 猫にエサを提供するという行為を、人間はもっと誇っていいとさえ思う。


 そういえば今日はヨーコがお供えを持って現れる確率が高い。統計的に言うなら、六、いや七割といったところか。外食もいいが、なるべく早く公園に戻らなければならない。


 野良としてそこそこ過酷な日常を生き抜いていくためには、だろう、とか、かもしれない、とかいう不確定な感覚で日々は過ごせない。霞を食べて生きているわけではないのだ。ただでさえ最近は天敵不在の公園内でのエサ争奪戦は熾烈を極めている。

 腹をすかしたまま一日を終えるなどというのはもってのほかで、派閥の沽券にも関わる大事だ。まして所属するグループはいまや十人(十匹)を抱えている。古株(成猫)を称する以上、全員分の食糧確保はもはや任務に等しい。生まれてまもなく捨てられたメンバーも居る。かつて自分がそうしてもらったように、彼らが自力でエサを確保できるようになるまでは面倒ごとを預かるのもやむを得ない。


 「難しい顔をして、考え事でもしてるのかしら?」

 ヨーコだ。毎度思うのだが、近づいたことに気付かせないのはある種の技術なのだろうか。自分がそう感の鈍い猫だとは思っていない。

 「忍者か?お前は(にゃあ)

 「挨拶してくれるなんて、風彦はなんて可愛いニャンコちゃんなんだぁ?」抱え上げて頬擦りしてくる。

 やめろ。そして僕は挨拶などしてはいない。なぜこっちがお前らの言葉を理解できるのに、そっちはいっこうにこちらの言い分が理解できないのか。

 む、と目が据わる。チーズの匂いがヨーコからはしない。つまり今日はお供え無しということか。

 七割を予想していた当てが外れたことは、苛立つのに十分な材料になりえた。


 お供えを持たない貴様(ヨーコ)になど価値はない。後脚を持ち上げて、ヨーコの手にかけ、脱出すると、引っかかった爪でヨーコの袖が捲れ、痛々しい傷が露わになった。無論、今自分がつけた傷ではない。爪は傷つかない程度に加減している。

 「その傷はなんだ(にゃあ)

 視線に反応して、ヨーコが苦笑いを見せた。こちらの言葉がわかったわけではない。僕の視線の置き方が巧いのだ。

 「あ、これね。別にお前につけられたやつじゃないよ」

 傷は、ぱっと見、切り傷だけではなく打撲の痕もうかがえた。

 「今のバイトがなかなかきつくてさ」


 要領悪いんだよね、あたし。自分に向いてると思ったことも上手くできやしないんだ。


 言葉にこそしなかったが、ヨーコが自分の兄とまた比較しているだろうことくらいは、わかった。

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