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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
60/100

嵐、の10~くがね~

 食べ終わった皿を底が汚れないように考え、大きさを揃えたうえで重ねて持ってくる様子を見て、くがねは「そういうことができる男は素晴らしい」と思った。

 決して気を許しているわけではなかったが、ここに届いた自分宛ての荷物を、障りない言葉でさりげなく渡してくれる優しさからも、この男の育ちの良さが感じられた。

 なにかと不器用そうな言葉の言い回しにも、好感が持てる。就職も結婚もできていないのが不思議に思えるほどだ。


 洗い物をして間をとることで状況を整理していく。

 こういう時、なにかをしているから、なにかができない、という言い訳に使えるのがありがたい。

 訊かれたくない質問も、「聞こえなかった」の一言で片づく。

 これはくがねがよく見知らぬ男に言い寄られた時に『穏便に相手を躱す』ために覚えた技術(スキル)だ。道端でならともかく、まさかバイト先でまで、寄ってくる相手を片っ端からちぎっては投げちぎっては投げなんて真似はさすがにできない。バイトと言えば客商売、という自身の安易な考えを払拭できれば別なのだろうが、小娘がチップ目当てで高級を取ろうとすれば職種はおのずと限定されていく。

 割のいいバイトだけを考えれば多少身を削れば済む話ではある。が、

 「この身は猫のためにのみ削る」と誓いを立てた以上、譲れない一線がくがねにはあった。


 そういえば、と、この家の就職も結婚もしていない長男は言った。

 「今朝、訊かれたことだけど。うちの親、やっぱり洋裁は出来るみたいだ。服の専門の学校を出たんだそうだ」

 「息子なのに知らなかったのか?」やっぱりね、という顔のすぐ後に、呆れた表情を、くがねはする。 

 「親のことを根掘り葉掘り訊くような子供の方が、今のご時世的には少ないんじゃないかな」

 そういえばそうか?思い返せば、くがねにもそれは当てはまる話だった。そういえば父親の仕事がどこかの会社員だという事しか知らない。言われて初めて、ああ、興味がなかったのだ、と実感する。

 いや、正確には、知ろうとして、失敗したのだ。以来、興味がなくなったというのが正しい。


 今度、桃子にも訊いてみよう。

 「あんた、あの親父の仕事なにしてるか知ってる?」

 ああ。訊くまでもなく、あの子(桃子)はそういうこと、ちゃんと知ってそうだな、と思う。


 あたしみたいに撥ねかえってなくて、ちゃんとしてて、父親を信じて疑わない。

 

 身を立てたら、あんなやつのところから迎えに行かなくちゃいけない。そう思ってからもう二年経つ。

 風彦と出会った日のことを思い出す。親と決別すると決めた日だ。忘れようもない。

 

 



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