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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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猫らしきものが家にやってきた、の2

 朝、目が覚めるとカーテンを開けてその日の天候を確認する。

 晴れているようならジャージに着替えて朝食までウォーキングをし、曇天なら窓を開け、雨の気配を想像してどうするか決める。今朝はいつになく日差しが眩かったので、慌ててカーテンを閉じた。

 ベッドのど真ん中で、部屋の主よりも悠然と眠る同居人へ配慮したのだ。

 小さい寝息をたて、まるで猫のように丸くなって眠る同居人に起きる気配はない。

 なるべく物音を立てずに着替え、玄関を出る。

 入念なストレッチをし、朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。

 今日もいい朝だ。最近運動不足で気になりはじめた腹に手を当てる。

 「内臓脂肪とか、危険らしいぞ。ことさらお前のような食生活をしている者にはな」

 迂闊。いつの間に起き出したのか、猫が、足元に居た。

 「ああ、吾輩もな。付き合ってやってもいい。この優美なプロポーションがお前同様に損なわれることは我慢ならないのでな」

 どのタイミングで目を覚まし、眠気の残る表情を持ちあわせてきたのか。あきらかに気を遣われていることくらいは理解できた。

 「私、じゃなかったのか?お前の一人称」

 「郷に入らば、の心持ちもある。従うのもまたひとつの真理よ」

 「まあ。ウォーキング中は気をつけてくれよ。誰が見てるかわからないんだから」

 猫は、フン、と鼻を強く鳴らした。

 「飛べない豚はただの豚なのだろ?私は少なくとも飛べる猫でありたいと思っている。高い志を持つ者は常に気を張って墜ちぬ努力をするものだ。いわんや我をや、と言ったところだ」

 どうやら昨晩就寝前に見た「紅の豚」の影響を受けているようだ。まあ要するにここ最近の怠惰な生活でついた自分自身の余分なものを落としたいのだろう。

 「そういえば昨日御母堂が言っていた『最近の猫ちゃんは味付けの濃いもの大丈夫なのかしら』と言っていたあれな。『大好きだから大丈夫』と、ちゃんと言っておいてくれ?犬だか何だかの食べる味のない棒っきれを渡された時は正直どうしたら正解なのか迷ったのでな。ファミチキとかイチチキとか、お猫様は大好きなのだ、とお前からちゃんと言っておいてくれると助かる」

 「普通の猫には過剰な塩分は毒なんだ。そんなこと言えるか」

 なにをさりげなく自分を『お猫様』などとのたまうか。食についての是非があるとはいえ「こいつ普通の猫とは違うんだよね」とは言えない以上、余計なことは口にすべきではない。

 自分の心の平安を保つために始めたウォーキングだったが、とんだ乱入者のおかげで落ち着きのないものになりかけていた。しかしながらそれが『そう苦痛ではない』ことであることもまた否めなかった。

 「朝に飲むビールが格別だって知ってるか?」

 「試したことはないが、最高だろうことくらいはわかる。チキンがあればなお良いが」

 「朝のコンビニに期待しすぎるもんじゃない。きっとまだ揚げてない」

 「じゃあ袋に入った乾物で我慢するとしよう」

 口の端が思わず歪む。ダイエットが遠のく音がしたみたいだった。

 「ところでお前、もう『吾輩』が抜けてるぞ?」

 猫が、しまったという顔をした。

 


 

 


ふつつかではございますが、ご愛読賜りたく。感想、レヴュー、評価、いいね、ブックマーク等々いただけましたら今後の励みにもなるというものです。よろしくお願いいたします。

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