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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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嵐、の4~僕~

 家に速達が届いたのは夕食がほどよく済んで、父親が焼酎でいい感じに出来上がった頃だった。

 小さな小包。

 受け取りに出て、「剣さまにお届け物です」と言われた時は、不慣れな状況に面食らった。

 そうか、他人の家にでも自分宛ての郵便物は送れるのか、と初めて知った瞬間だった。そういえば昨日、僕宛てのダイレクトメールをくがねが見ていたことを思い出す。

 送り主は、剣雷蔵。またこれもいかつい名前だ。親だろうな、と勝手に思った。送り主の住所が目に入る。少し遠いが同じ市内が記されていた。少しほっとした自分がいた。家庭環境がどうあれ、家族の縁が切れていないというのはいいことだ。

 余計なことは言わず、荷物をそのままくがねに手渡すと、「意外に早かったな」とだけ呟いてその場で荷ほどきをはじめる。

 小さな白い箱が複数。そのうちのひとつを開封すると、中には親指で隠せる程度の大きさの、丸く銀色のアクセサリーのようなものが入っていた。それを確認して、くがねは満足そうに頷いた。

 「それは?」

 「落とし物をした時にその位置を知らせてくれるタグだ。携帯と連動していて追跡もできる。これを――」くがねは手を伸ばし、風彦の首元にちらつかせる。

 「なるほど」首輪につけておけば、離れていても位置がわかるということか。

 「安心しろ、全員分(全猫分)ある」くがねは得意気だ。視線を猫の方へ切る。

 しかし案の定というか、予想通りというか、猫の表情は冴えない。味付けされていない生魚をそのままエサとして出された時のように、ぶすっとしている。桃子に首輪を勧められたときも頑として首輪を拒否していたのだ。今回だって決して素直に首を縦に振ろうはずもない。

 そんなに嫌なのか?と訊くと、小さな声で「首輪は服従あるいは隷属の証だ。貴様は何度も何度も同じ事を訊くが、馬鹿なのか。冗談ではない」と歯を剥く。風彦も乗り気ではないらしく首を余所へ向けて黙っている。


 母親が台所から顔を出し、食事の済んだ皿から片づけを始めた。くがねがそれを遮る。

 「洗い物くらい、あたしにさせてください。料理はできないけど、皿洗いならアルバイトで経験あるので」

 そう?じゃあおまかせしようかしら。母親はにこりと笑ってくがねの申し出を快諾すると、そのまま家の奥に消えた。

 「洗い物くらい僕がやるのに」

 「いや、せめてこれくらいはな。料理はからきしだが、片付けなら妹ともよくしたものだ」

 手伝いますよ、と食事を終えた食器を重ねる。

 「くがねさんは桃子さんと二人姉妹なんですか?」

 「そうだ。だが性格はずいぶん違うな。桃はまあ、少し変わっているが良い奴だ。裏表がなくて明るい。それにあたしと違ってはっきりものを言う」

 「家に帰ろうとは思わないんですか?」

 くがねは洗い物の手を止め、こちらの真意を測るかのようにじっと見つめてきた。

 質問の多い男は嫌われるぞ、と釘を刺したうえで、「事件現場から近いところに拠点を置くに越したことはない。お前のところの同居人が連れてきたんだ。文句なら猫に言え」と言った。

 くがねの物言いから、得心が伝わってきた。送り先を僕が確認したことがわかったのだろう。


 「この事件が片づいたら、一度くらいは顔を見せるさ」僕に対して念を押すように、彼女は呟いた。

 


 

 

 

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