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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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予期せぬ来訪者、の5

 自室に戻ると剣くがねと同居人、風彦が、めいめいにくつろいでいた。

 かえって余計な気疲れをさせたかもしれない。くがねは僕のベッドに仰向けに寝ていて左腕で目元を覆っていた。

 「眩しいなら、電気を少し暗くしましょうか?」

 「大丈夫。食べ過ぎただけだ」

 にゃあ、と風彦も丸くなりながら鳴く。

 「久々にまともな食事だったとさ」と猫の通訳。

 「あんたいつもあんな御馳走食べてんのか?」

 まさか、と笑う。年金暮らしの親がそんな贅沢を日々するわけもない。

 「きっと久しぶりの客人に見栄を張りたかったんだと思います」あながち嘘ではない。

 「うむ。まぐろはやはり大トロに限る。三割引かれてもあの美味さ。店の苦労より我が胃袋の満足よ」

 にゃあ、と風彦。同意したのだろうくらいは僕にもわかった。

 「飲みますか?」小さめのグラスを差し出す。

 もらおうか、と、くがねがグラスを受け取った。


 「この服、妹御のものなのか?」くがねがパンツの膝の横を軽くたたいた。

 まあ、と答える。

 「あたしにも実は双子の妹がいてな」軽くグラスを傾ける。強いと感じたのか、舌で唇を舐めた。会話が、一瞬途切れる。

 「日本のウイスキーです。舐める程度に口に含んで飲んでください」

 「なるほど。だが、美味いな」

 「『あかし』って言う名前の酒です。お金に余裕がある時、たまに買うんですが、今回は親の金で」

 親の金か、なにかが可笑しかったのだろう、くがねはからりと笑った。

 

 「桃子であろ?お前の妹」話をつなげたのは猫だ。くがねが猫の方へ顔を向ける。

 「桃子を知っているのか。こいつは奇縁だ。まあ、この街にいるんだ、まして猫であればそういう偶然で会うこともまたあるだろう」

 妹の仕事も、この街にいることも、くがねは知っているようだった。

 桃子さんには、会ったんですか?とは訊かなかった。既に会っているなら、くがねがこんなところにいようはずはないからだ。

 「あいつは、……どうだい?」言葉尻がやわらかく響く。言葉を止めた時に別の言葉を呑んだのだろう。

 「とてもしっかりしているし、仕事にも忠実だ。私のグループの(オス)どもは軒並み桃子に捕まってアレをちょん切られた」

 「()()をか!ハハハハ。それは悪いことをした!道理であのトラ猫があたしに絡んでくると思った。桃子と勘違いしたわけか」くがねは本当に嬉しそうに笑っている。

 「まあ、それだけ人気だということだ。タイガーなぞ、()()をとられたにもかかわらず妹に首輪をつけてもらって喜んでいる。私には到底信じられんが」

 妹の桃子は法の内側で、姉のくがねは非合法(イリーガル)に、それぞれ同じ敵「アニマル・キラー」を相手にしようとしている。お互いが、互いの知り得た情報を共有するでもなく、それでも同じ目的を持って同じ相手を追う。それは猫を思う互いの共通認識が導いた(わざ)なのか、それとも双子(姉妹)ならではのシンパシーがさせる(わざ)であるのか。


 すごいな。


 年下の彼女たちの方が自分より立派とか。

 こういうことが、リスペクトする、ということなのだろうか。

 「桃子さん、元気ですよ」

 僕は、彼女が先刻呑みこんだであろう言葉を口にした。

 「そうか、それはなによりだ」

 くがねはとても美しい破顔一笑をしてみせた。

 

 

 

 

ようやく、剣鉄つるぎくがね剣桃子つるぎももこが双子の姉妹であることに触れることができました。本当に思うんですが、タイミングって難しいですね。これが正解回であったのか、早まった(あるいは遅かった)回であるのかは私にもわかりません。今後ともご愛読よろしくお願いします。はたして主人公は就職することができるか!?

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