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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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予期せぬ来訪者、の1

 階下でチャイムが鳴って、しばらくしてパタパタと慌ただしげな音がしたかと思うと、間を置かず

母親が階段の下で声を上げた。

 「お客さんよ」の声に思い当たる節もなく、外から戻った()()で下りていく。アマゾンの森本さんだろうかとも思ったが、配達なら親もただ荷物を受け取って終わりなはずだった。それに、今は特に配達をしてもらうものの心当たりもない。

 「あんたね、大事なことは最低限言っておいてくれないと。こっちにも準備ってものがあるのよ」と小声で母親。

 なんのことかまったくわからない。首を捻る。

 玄関に出向くと、黒く着飾った剣桃子が立っていた。同居人()と、緑色の猫もいる。ああ、と、事情を飲み込む。

 「双子設定の!」

 「この馬鹿!」猫がすかさず、つっこんだ。

 眼鏡こそしていないが、猫が言っていた通り、動物愛護センターの剣桃子に瓜二つだ。

 「遠いところからわざわざ足を運んで頂いたんだ。玄関先でなく、上がってもらいなさい」遠間から父親が口を開いたようだった。

 何ヶ月かぶりかで聞いた声。父は果たしてこんな声だったか?

 経緯と詳細は全く見えないが、状況はなんとなく理解した。猫が独断で彼女と猫を連れてきた、そういうことだ。

 「どういうことだよ」

 「説明は、する」

 当たり前だ。結局のところ、どうにかしなければならないのは多分に僕なのだから。

 

 畳のある客間に通そうとすると、剣桃子似の女は「先にお手洗いを」と言った。何か黒いものをポケットから取り出すのが見えた。手洗い場から戻ると彼女は黒く大きなバックを手にしている。玄関では見なかった荷物だ。スカートを丁寧に折り、畳に座る。

 「あの」

 茶の用意と称して同席する両親。紹介しろ、と目が合図している。

 猫を睨みつけると一言、「にゃあ」と鳴く。

 肝心なところで猫かよ!

 正直、こういうアドリブに、僕は対応していない。古いOS搭載のパソコン並みの男だ。カスタマーサービスだってとうに終了している。しどろもどろになりそうなところで、彼女が口を開いた。

 「突然お邪魔してしまい申し訳ありません。あらためまして、私、剣くがね(つるぎくがね)と申します。以前彼とはお仕事でお付き合いがございまして。今、お仕事を辞めてご実家だと伺いまして、()()()()近くに寄ったものですから」

 ですので、どうぞお構いなく、と彼女、剣くがねは言った。

 「お構いなく」と言う人間は、通常なんの先触れもなしに初対面の人の家に押しかけたりはしない。

 「珍しいお名前ですね。つるぎ、は、「けん」と書くのですか?」

 「ええ、ちなみにくがねは漢字の『鉄』、でくがねと。よく男子と間違われます」

 「いえ、とても凛々しいお名前で」

 なんだコレ。

 妙な茶番が広がらないうちに事態を収拾しなければならない。

 「悪いけど、部屋に行く。くがねさんも、それでいいですよね」

 

 剣くがねの顔に一瞬、安堵が見えた。どうやら選択肢は誤っていなかったようだ。以前これでもかというほど間違えたギャルゲーの選択肢は、現実の世界では当てはまらないことが証明された。と同時に、気を利かせたつもりで持った彼女のバッグが異様に重く、先行きの暗さを予感させた。

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