邂逅の4
「いいか?」
僕は目の前の奇妙な猫(?)に念を押す。
「あきらかに不機嫌」と見える猫の表情はとても不思議だ。
これまで何匹もの猫を実家で飼っていたが、ここまでわかりやすい表情の見え方があったろうか?
やはり二本足で直立できるような猫はなにかしら普通とは違うのかもしれない。
「――で、なんだ?」
言いかけてやめたことを気にしたのだろう、猫が苛立たしげに急いてきた。
「このあたりのいわゆる『猫』というやつは、基本、にゃあとしか言わない。アンダスタン?」
「アンダスタン?ではない。失礼な奴だ。それくらいは心得ている」
「二本足で立つのにか?」
細かいことを気にするやつだ、と猫の目が言っていた。舌打ちして顔を横にそむける。
「ファーストインプレッションが肝要ということだ。敵の出鼻をくじくのには奇襲が一番だからな」
「僕は敵かよ」
「はじめが肝心だということだ。『先んずれば即ち人を制す』と先人も言っておられる」
思わず口をつぐむ。
「……とにかく。家では『にゃあ』以外禁止だ。うちの親は猫に理解はあるが、猫っぽいものにまで理解があるとは限らないからな」
「まあ、やむなしか」
不承不承という言葉がひどく似合う言い回しを、目の前の『猫っぽいもの』はした。
「念のために言っておくが――」
「わかっている。立って歩くなと、言うのだろ?」
わかってるじゃないか、という言葉を僕は飲み込んだ。悔しかったので、代わりに「長靴は支給しないって言おうと思ったんだ」そう放った。
ビールを二本飲みきった猫は、多少おぼつかない足取りで横を並んで歩いた。
「抱っこしてやろうか?」という僕の言葉に「男に介抱されるほど落ちぶれてはおらんよ」と呟く。
これが夢の出来事でなければいったいなんだというのだろう。
狐ではなく猫につままれた気分だ。