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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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今そこにある危機~猫~の9

 「どうしてそこまで『アニマル・キラー』にこだわる」

 私の言葉に、くがねは笑ったようだった。あんたに関係ある?そんな横顔。

 「猫の敵だからな。それに、そいつらを捕まえるのは私の仕事でもある」

 躊躇わず、迷いなく彼女は即答した。

 長い黒髪が風に揺れる。細身の面立ち黒目がちの大きな目、丈の長い黒服で目立たないがゆったりとした服の下には色白ながら鍛えられた四肢が見える。よく同居人やつが眺めている本に載っている人間種の美女のたたずまいに近い。もっとも、やつの見ている本の女性は、もっと身につけた布が薄くて肌の露出もかなり多めなのだが。


 念のためクールガイに、以前公園で見かけた「怪しい奴」が、くがねなのか確認してみる。彼だけが「怪しい奴」を目撃していたからだ。

 「そいつらは男だ。そもそも女じゃないし、においが違う」

 「におい?」

 「そうだ。あいつらからは下衆の臭いがする」くがねが突然割って入ってきた。

 「そこの三毛、ジョン・ドゥとか言ったな。お前から先刻、微かにその臭いがした、嗅がせろ」

 もはや遠慮なしに詰め寄ってくるが、止め立てするものはいない。タイガーが恨めしそうにこちらを見ているだけだ。そして私はジョン・ドゥではない。

 

 くがねは両の手をわきの下に容赦なしに差し込み、おもむろに私の体を持ち上げた。

 ミイコとも、水晶とも、人間種の湊とも違う、甘い匂いが鼻を抜ける。

 この間同居人に見せられたジョージ・A・ロメロ監督のゾンビのようなポーズにされる。縦に、だらん、と体がだらしなく伸びた。

 くがねは、顔を近づけ、容赦することなく私の体に顔面を押し付けてきた。彼女の鼻息が何度も体にあたる。そのたびに、こそばゆさで身悶えする。足をばたつかせてもがくと、くがねの鼻はより密着して肌に触れてくる。やめろと叫んで爪を出すわけにもいかず、まさにされるがままだ。「そ、ソコはやめろ!」

 女性陣の冷たい視線が刺さる。

 だからせめて「やめろ」とだけはもう一度叫んでみた。いわゆる、ていというやつだ。


 「やだ。彼、鼻の下伸びてるわ」とミイコ。

 「あれでもオスだからね」水晶が呆れたように息を吐く。


 屈辱。かれこれ数分。衆人環視の中、必死に耐えた私にかけられた言葉がこれだ。

 タイガーから向けられる羨望の眼差しが痛い。

 女子連中は呆れ顔をし、男子(?)連中は多少の同情もあってか、目を細めて黙し、口も開かない。


 散々匂いを嗅いだ後、くがねは私を地面にゆっくりと置くと、「臭いの気配は残っているが、微かすぎて駄目だ」と呟いた。

 「だが、割と近づいてはいるようだな。この間の男といい手掛かりは多い。共通点を洗おう」風彦が冷静に分析し、くがねも小さく頷いた。

 「仕方ない。風彦、拠点はこのあたりに置く。できればここに長居はしたくない。なるべく早く、仕事として片付けよう」

 くがねの発した「仕事」という言葉には、どこかしら物騒な響きがあった。

 「ちなみに見つけたとして、どうやって捕まえるの?」と、ミイコがもっともな意見を放った。鍛えている様子はあるものの、どう見繕っても戦力は女性一人と猫一匹だ。

 そうだな、くがねは空手の演武さながらに、ひゅひゅっと素早く拳を放ってみせた。

 「現行犯で、力ずくだ。捕まえて、警察に通報する」 

 まさかの回答に、タイガーをはじめ、その場の全員からざわつきが起こる。

 「でも、正攻法ではないわけね」水晶は何かを感じたらしい。やれやれと小さく首を振る。

 「あんた、猫の割に鋭いね。でも女というだけでも立派な武器のひとつなのよ?」


 奇襲――か。


 くがねは手馴れた動きで長い黒スカートのすそを持ち上げた。

 最初、ここだけに突発的な雨が降ったのかと思った。大きな音と小さな音がたて続けに地面に振り落ちる音がした。

 大小長短さまざまな武器が、地面に刺さり、あるいは転がった。その数は十数にも及ぶ。

 「――捕まえて警察に通報が関の山だって、これでわかるでしょ?」

 合法にはできない理由はこれか。「無限の住人」の万次みたいだ。



一日一話を心がけていたのですが。遅ればせながら

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