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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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今そこにある危機~猫~の8

 「臭うな」

 仕切り直した『くがね』が呟いた。そういえばこの間も森本にそんなことを言っていた。この女(こいつ)のテンプレでもあるのだろうか。しかし今日は森本も、他の人間種も、ここにはいない。

 「お前だな。怪しい猫め」

 眼差しは真っ直ぐ私に刺さった。勿論だが、思い当たる節などない。くがねが歩み寄ってくる。同居人やつならまだしも、この女にはどうしてか勝てる気がしない。反射的に耳が、寝る。

 タイガーがスルリと私の前に出た。

 「ウチの……なんと言ったっけ?」

 「ジョン・ドゥよ」水晶が間髪入れず、答える。


 いや、私はジョン・ドゥではない。


 「……そう、それだ。ウチの仲間に手出しすることは、俺がさせない。俺が代わりにかまわれてやろうじゃないか。今なら特別に腹をなでさせてやってもいい」すかさず寝転がるタイガー。その目はいたって本気だが、ジョン・ドゥさえ言えていない。ただかまってほしいだけなのか?

 「リーダー、流石だ。相手が誰でもブレやしない」キーマンが叫んだ。

 「タイガーだからな」とクールガイ。

 「邪魔をするな。彼女は(ジョン・ドゥ)に危害は加えない」

 風彦が割って入る。


 だから、私はジョン・ドゥではない。


 「聞け!ことは急を要する。ブラックサンズのフェイクが昨日襲われた。幸い軽傷で済んだが、少なくとも三人の人間に囲まれていた。あと十分、あたしたちの到着が遅ければ、今日のニュースで報じられたかもしれない。犯人は赤目あかめのやつらだ」くがねの言葉に強い緊張が宿る。

 ブラックサンズはリーダー、デイモン(黒猫♂)を筆頭に、親族中心の黒猫で固めたグループだ。大通りの南側に拠点を置き、ハードストレイキャッツとは時に縄張り争いでやりあうこともあるが、完全な敵対勢力ではない。

 「『赤目のやつら』?」それはハードストレイキャッツの誰も、聞いたことのない名前だった。

 ちょっとまてよ、と割り込んだのはクールガイだ。

 「ブラックサンズのフェイク(ほぼ黒猫(去)自称ハーフ)が?やつは人間なんかにおいそれとやられるような奴じゃない」

 クールガイとフェイクは過去に何度も個人的縄張り争い(女性問題)で戦ったこともある因縁浅からぬ間柄だ。それ故に、互いをよく知っていた。

 「フェイクは一匹オオカミだ。人に尻尾を振らず、たとえ目の前にМAGRO-TORO(マグロ トロ)の缶詰をちらつかせても決して腹も見せない。そんなやつがみすみす自分の間合いに相手を入れるはずがない」クールガイは好敵手としてフェイクに一目置いている。女性問題(縄張り争い)はこれまで互いに譲らず、去勢される前までの戦績は五分と五分(イーブン)だ。


 盛り上がりに水を差すようで言葉にはできないが、フェイクは誓って、猫だ。オオカミではない。


 「まさか……だって、あの缶詰はシリアルナンバー入りなのよ!それなのに見向きもしないって言うの?」ミイコがフレーメン反応のときのように表情を固めた。


 高級マグロ缶の話をしているわけでもない。猫はどうも目の前のことに囚われ過ぎるきらいがある。


 「疑うならそれもいい。だが、とりあえずはこれを見ろ」

 くがねはポケットからスマートフォンを取り出し、こちらに見せた。

 一本の動画が画面に映る。

 四肢の内、右前足だけが白靴下(白い)の黒猫が苦し気なうめき声をあげている。弱っていることは画面ごしにでもうかがい知れた。

 「……ハードストレイキャッツ。この動画を見ているのなら、お前たちも気をつけるんだ。グッ!やつら暗闇でも俺たちみたいに夜目が利きやがる。ヘルシーな、いなばのライトツナ缶(スーパーノンオイル)につられて、結局このざまよ。いいか、決して赤い目をした奴等にツナ缶を出されても、近寄るな。あいつら、こっちが可愛く鳴いてみせても、決して容赦しねえ……」動画はここで途切れた。

 「あの一本だけ白い前足、間違いねえ。フェイクのやつだ」クールガイの声が怒りに震えている。

 「いなばのライトツナ缶(スーパーノンオイル)をエサに使うなんて……酷すぎる」ミイコは今にも泣きだしそうだ。

 「だが、事実だ。奴らは僕たちを捕らえるのに手段を選ばない。より効率のいい方法があるのなら、すぐさま手を打ってくるだろう。君のようにМAGRO-TORO(マグロ トロ)の缶詰に目がない女性()にも、容赦なくね……」風彦は感情をこらえ、飽くまでも冷静に努めようと、声を抑えている。

 「……そんな!」

 「今日ここに来たのは他でもない。忠告だ」くがねの目は真剣だ。

 「ブラックサンズのリーダー、デイモンとは既に話はつけた。ブラックサンズは、ことが終わるまで夜の集会はおこなわない」

 「『赤目』の連中を倒すためにブラックサンズと手を結んだわけではないのね?」水晶。

 「人間相手に(僕たち)じゃ非力すぎる。言ったろう?今日は君たちに忠告に来たのだと」

 「忠告、か」 

 「そうだ。しばらくの間、夜は出歩くな。まあ、杞憂だったみたいだが」

 ハードストレイキャッツの集会は昼だ。その点を風彦も理解したのだろう。


 「その間にあたしたちが、『赤目』を、いえ、『アニマル・キラー』を狩る」

 くがねの目に強い決心の炎が燃えていた。


 



 


 

おかげさまで初投稿のこの作品もPV1000が見えてまいりました。ひとえに皆様方のおかげです。Twitterで拡散してくださる方もいて、思わず嬉しくなってしまいました(自分ではSNSは全然やっておりませんので)。自分でもSNSやってみようかなと、思いました。今後ともよろしくお願いいたします。今回話に出てきたブラックサンズは第9部分「猫の恋、の1」からの伏線です。この作品にはほかにも多くの伏線が隠れていますので、ぜひ探し出してニヤリとしてもらえたら嬉しいです。

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