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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
36/100

今そこにある危機~僕~の5

 車窓に当たる雨粒がべたべたと品のない音に変わる。暑い雲の切れ目がうすぼんやりと白く光り、すぐさま雷の轟音が、どぉん、と響いた。

 「これ、落ちましたね」ワイパーの動きを最大にしてなお視界が悪い中、剣桃子は走らせる車の速度を緩めない。市内のビル街を抜けて、空が広く確認できる田園地帯に入ると、車の影はまばらになっていた。

 車の中にいてなお、アスファルトが濡れた匂いがした。

 知ってました?雷って横にも走ってくるんですよ?あまり話をしない僕に気でも使ったのか、剣桃子がそんことを言った。へえ、と素直に頷く。

 「へえ、って。話が終わっちゃったじゃないですか。もしかして話し続ける気ないです?」

 彼女の口調は軽快だ。こちらとはすでに打ち解けたつもりでいるのか、会話には強引さが交じっている気がした。あの後急に強まった雨を見かねて、彼女は僕を家の近くまで送ると言ってくれた。躊躇ったが、結局こうして今は助手席に落ち着いている。けたたましい雨が地面に当たって膝まで跳ねるのを見れば、大抵の人間の気持ちに諦めが生まれても仕方のないことだと思う。この雨の中、待機所も蓮の葉もないバス停で時間通りに来たためしのないバスを待って惨めにたたずむというのは、あまりにいただけない話だ。

 渡りに船、そう思うことにした。

 「これって、呉越同舟ですかね」剣桃子があまりに明るく言うものだから、呉越同舟の意味合いがここに来て変更になったのかと心配になる。なんとなくだが、彼女は勘違いしている、そう感じた。

 「確かに、雨がここまでひどく降らなきゃ、こうして車に乗せてもらうことはなかったかもですね」

 「『まさに渡りに船』ですね」

 呉越同舟じゃなかったか?とりあえず黙った。

 彼女の中では同じ意味なのかもしれないと思ったからだ。


 「そう言えばさっきの雷の話」

 「お、喰いついちゃいました?」

 間が持ちそうにないのだからしかたない、とは言わない。車に乗せられている以上、僕にはほかにできることが思いつかないのだから会話を続ける努力くらいはしなければならない。ドライバーが退屈しないよう図るのは助手席に座ったものの責務だ。


 郊外に行くにつれ、雨は次第に弱まってきた。よく親の言う「ここらへんの天気予報は隣りの県のものを見た方がいい理論」を僕はあながち冗談ではないと思っている。

 天気予報図に限らず誰が最初にそう括って、なぜいまだに誰も見直しを加えないのかという事柄は多い。

 「私、家を出る時、天気予報はいつも隣りの県の予報見てくるんです。不思議とその方が当たるんですよ。ほら、もう雨が上がりそうですよ。隣りの県だと、もう今日はこれ以上の雨は降らないんですって」

 「うちの親もそう言ってますね。どうやって予報範囲を決めてるかわからないけど、そろそろ見直してもいい頃合いなんじゃないかな」

 ですよね、と相槌を打った後、「それでも変わらないと思います」と剣桃子は言った。

 「え?どうして」

 「だって、面倒でしょ?そんなことにお金をかけて直すくらいなら別のことにお金を使ってほしいですもん。天気予報くらい私たちは隣りの県のものを見ればいいだけでしょ、だってわかってるんだから。隣りの天気予報が合ってるって」


 あっけらかんと答える剣桃子に、僕は「ああ、そうだよね」としか答えられなかった。

 

いつも読んでくださっている方々(というほどはいない)に感謝感激雨霰です。感想、レヴュー、評価、いいね、ブックマーク等々いただけましたら今後の励みにもなるというものですのでどうぞよろしくお願いいたします。「必要とされてる実感が欲しいのよ」←機動警察パトレイバーより引用(多分こんな記述があった気がしますです)

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