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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
33/100

今そこにある危機~猫~の6

 ここ数日、日差しのない日が続いている。予報は雨なのだが、私の髭に雨の予報は出ていない。

 公園の芝生がひやりとしていて気持ちがいい。

 そのせいもあってか、久しぶりにハードストレイキャッツのメンバーが全員顔を揃えていた。

 「久しぶりね」ミイコだ。手術後しばらく神経質になっていたと聞いていたが、ようやく落ち着いたのだろう、声は軽やかだ。

 クールガイ、キーマン、珍しいことに水晶もいる。

 「あれ見てよ、ジョン・ドゥ」水晶が軽く目配せをした先にはタイガーの姿。ひとことも発せず、遠い目をしている。

 どうしたんだ、と訊きそうになって気づく。タイガーの右耳の先が傷ついている。

 「眼鏡の姉ちゃんに捕まって、あれだよ。お前も気をつけろ?途端にタマナシにされちまう」

 ついにタイガーも捕まってしまったか。遅かれ早かれとは思ったが、思っていたよりかはずいぶんと早かった。これでチーム内で純粋なオスは自分一匹ひとりか。

 「タイガー、大丈夫か?」

 ここ数日雨が降っていた。どこでどう捕まったのやら。

 「これを見ろ」タイガーはちらりとこっちを向いた。肥満気味なのと体毛で見えにくかったのだが、真っ赤な首輪をしているようだった。よく見ると金色の鈴も見える。

 未来の世界の猫型ロボットがしているものとよく似ている。

 「愛だ」

 「え?」

 「これは彼女の偽らざる俺への愛なんだ」

 報道されている新しいアニマル・キラーは野良ばかりを狙うと報道されている。それが愛であるかどうかは別として、首輪は剣桃子なりのやさしさであるようには思えた。

 「さっきからずっとこうなんだ」、「いかれてる」口々に飛び出す言葉は過激だ。 

 ミイコがクスッと笑った。

 「私は、リーダー(タイガー)が『愛』って感じられるの、いいと思うけどな」

 ミイコは飼主によって病院で手術された。彼女の首にもきれいなピンク色の首輪がついている。鈴のかわりに女の子らしい金のイルカがぶら下がっている。

 愛について、彼女がどういった意味合いでその言葉を口にしたのかはわからない。ただ、この場で唯一のオスである自分が考えている「愛」とは似ていて、それでも一生交わらないもののような気はした。

 ミイコの横顔には、あきらめと同時に清々しさがあって、その場の誰もそれ以上の言葉を紡ぐことはしなかった。


 今日の公園は静かだった。いつ雨が降り出すかもしれない公園に子連れの姿はなく、駐車場にエアコンをつけっぱなしで休憩をとる会社員の姿もまばらだ。ゼン爺やほかのホームレスの姿も今日はない。グラウンドも静まり返っていて、無遠慮な誰かが横切ったのであろう足跡が一人分ついているのが見えるだけだ。

 

 そう。予感はあった。


 集会に普段顔を出すことのない水晶がいるくらいだ。膳立てはあらかじめ決まっていたようなものだ。


 「お揃いね。手間が省けて結構」


 風が吹く方角から、声が風に乗って届いた。


 猛暑の中日で幾分涼しいとはいえ、真夏には不相応な長袖黒づくめの姿があった。

 ハードストレイキャッツの前に現れたのは、剣桃子によく似た女と、緑色の猫だ。

 

 

ふつつかではございますが、ご愛読賜りたく。感想、レヴュー、評価、いいね、ブックマーク等々いただけましたら今後の励みにもなるというものです。よろしくお願いいたします。

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