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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
31/100

今そこにある危機~僕~の3

 ひっきりなしに泣きじゃくる蝉も、さすがに雨の日くらいは鳴りをひそめるようだ。窓を叩く細い雨にそれほどの破壊力はなかったが、屋根を定期的に叩く様は、木の空洞に砂を詰めた南国の楽器が奏でる音に似ていた。

 「今日は出かけないのか?」と、猫。

 「酔狂ならそうもするけど、好きでびしょ濡れになるのは避けたい」朝、カーテンをめくった瞬間から、今日は出かけまいと決めていた。雨の中、傘を差さずに踊る人間がいてもいい。その台詞は好きだったが、実践するかどうかの自由はこちらの選択の先にある。細かい雨は意外とダメージが大きいのだ。

 「雨だから、引きこもる人間がいてもいい。自由とは、そういうことだろ?」

 「お前がロジャー・スミスを語り、あまつさえけがすとは。恥を知れ」

 ビッグ・オーの代わりに猫が毒づいた。正直、日中に家にいるのは苦痛だった。玄関の靴を隠して、出かけたふりをしたい気分だ。面接結果待ちとはいえ、就職が決まっていない以上無言の食卓に座すことは必定だ。親もそうだろうが、僕だって相応に気の置きどころがないのだ。

 とりあえずテレビをつける。録画した深夜アニメも気になったし、なにより一瞬訪れる沈黙の時間が耐えられなかったからだ。

 「おい、これ……」

 猫の声が震えていた。

 ワイドショーの司会が深刻そうな顔で「信じられないですね、またですか」を繰り返している。

 『アニマル・キラー再び!』の文字が画面左上に、速報!と掲げられた状態で映し出されており、有識者が難しい顔で議論を展開していた。

 「狙われているのは、今のところ首輪のされていない野良だけのようですね」

 「野良だから殺してもいい、という理屈にはなりません。そもそも命というものは――」

 「前回の犯人はすでに捕まったんですよね?」

 「まあ、いわゆる模倣犯というべき――」

 時間を潰しているような不毛な話が続く。わかったことといえば今回の犯人は別にいて、それがこの町周辺にも食指を伸ばしているということだった。動物愛護センターの職員は事前にこの犯人の存在を知っていて、水面下で調査をおこなっていたのかもしれない。

 「終わったんじゃなかったのか」

 猫がテレビを見る目も厳しかった。

 「これを見ろ」

 猫の手(?)が指し示す先には簡易的な地図があり、被害が確認された地点には赤い丸印がつけられていた。その範囲の中には、わかりにくいものではあったが、この地域周辺も含まれているように見える。

 「終わってなんか、いなかったんだ。だから……」

 疑念が確信に変わった瞬間だった。執拗に首輪をつけるよう促してきた、剣桃子の真剣な表情が思い返される。

 「人間、先入観で偏見を持ったらいけないんだな」今度剣桃子に会う機会があれば、怪しい奴と思ったことを謝ろう。

 「しゃべる二足歩行の猫には偏見なしだったのにな」違いない。

 「アニメ脳恐るべし、だ。そのうち人間は時間さえも支配するのかもな」

 軽口を叩いてはみたが、正直、口が乾いていくのがわかった。

 今回ばかりは、前回の事件の時のように、他人事ひとごとで収まるような気がしなかったからだ。

 外では、雨が勢いを少し強めたようだった。

 

ふつつかではございますが、ご愛読賜りたく。感想、レヴュー、評価、いいね、ブックマーク等々いただけましたら今後の励みにもなるというものです。よろしくお願いいたします。

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