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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
30/100

今そこにある危機~僕~の2

 猫が、セブンイレブンに入ろうとした僕に声をかけてきた。

 「今日も集会だったのか?」

 猫は答えるかわりに此方に視線を投げ返してきた。この暑いのによくやる。毛で覆われた姿に同情を禁じえない。

 「僕はカップ焼きそばの新作チェックだ」

 「ミニストップじゃ駄目なのか?あっちの方が近いだろうに」

 わかってないな、と鼻を鳴らす。ミニストップには別の良さがある。そしてそれを楽しむのは今日でなくていいのだ。まあ、いずれこいつにも教えてやろう。

 「そうだセブンのチキン買ってみるか?揚げ鶏も良いけど、たまには趣向を変えるのも大事だろ?」

 にゃあ、と今度は明確に返事が戻ってきた。二つ返事に近い。

 帰り道、猫が森本さんに会ったのだと言った。あの人本当に猫好きなんだ。人懐っこい笑顔が浮かぶ。

 「それと、剣桃子に瓜二つな女にも会った。彼女の雰囲気を怖くした感じで、緑色の猫を連れていた」

 「双子設定かよ」それに緑の猫。少し前に何処かの外国メディアで撮影された、ペンキ塗りたてに転がって全身エメラルドグリーンになった猫の写真を思い出す。

 「ペンキ缶でもひっくり返したのか、その猫」

 「いや、手塚治虫だそうだ」

 首を傾げる。ジャングル大帝にでも出ていただろうか。


 自宅が見えてきた頃、森本さんが配達先を探していたアパートに目がいった。比較的新しめの二階建てアパートに見えるが、階段がない。すぐに一世帯が二階も使えるメゾネットタイプだとわかったが、どう見ても三階建てではなかった。すぐ隣に平家建ての一戸建てが二棟。壁と屋根の色が同じところを見ると同一コンセプトで建てられたもののようだ。

 一戸建てなら隣の壁が薄いとかの苦情の心配はなさそうだ。都心に住んでいた時の狭苦しい部屋を思い出す。あの頃、隣室のテレビの音が筒抜けで、聞きたくもないニュースが寝ていても耳に飛び込んで来たものだったが、慣れてくるとそれも子守唄に聞こえてくるから不思議だ。

 不意に、平屋建てのアパートから男が大声をあげながら飛び出してきた。金髪に浅黒の肌、体躯は細身なのに無駄な贅肉は感じない。細マッチョとかいうやつか。酔っているのかどこか足元が辿々しい。追いかけるように同年代くらいの女が家から出てくる。「みっともないからやめなよ」と通る声は、この場合逆効果だ。もはや壁が薄いからどうとかいう問題ではない。何事かと思った隣近所が、これぞ田舎の娯楽とばかりに、やいやいとした野次馬になって顔を出す。

 後から母親に、男は市内の美容室勤務の美容師で同居女性はフリーターであることを聞いた。

 母は、「三階建てでもないのに三〇一とか言うもんだから、宅配の人だって困るわよね」と前にも聞いたデジャヴのような台詞を言った。

 「あのアパートにはシングルマザーで子供を二人も抱えた人も住んでるのに、あの美容師、夜中でも飲んで帰ってきては暴れるのよ。お向かいの佐藤さんも迷惑がってたわ」

 他にも、住人がすぐ変わる部屋があるとか、ビール会社に勤めてる感じのいい若夫婦の話とか、時間経過とともに母親の話が脱線と混迷を極めてきたので、僕はタイミングを計って話を切り、猫と一緒に二階に上がった。

 OUTという、小説が原作の映画があった。近所の主婦が結託して旦那をバラバラにして殺してしまう話だった気がする。母親がそんなコミニュティに加担していないことを願った。

 セブンイレブンで買った揚げたての「ななチキ」はすっかり冷めてしまっていた。それはそれで美味かったが、猫は不満気だった。

 「それもこれもお前が井戸端会議なぞにいつまでも組み込まれているからだ」いつまでもペロペロと手(?)についた脂を舐めている。

 「次はアツアツを食おうな」

 「冷え冷えのビールもたのむ」

 猫の喉がぐるぐると鳴ったのが聞こえた。


少しずつですが読んでくださる方がいて、とても嬉しいです。ブックマークなどしていただけたら励みになります(主に私の)。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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