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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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今そこにある危機~猫~の1

 太陽の熱波にあてられたアスファルトが、拷問器具のように足元を灼く。猫には人間のように靴を履く習慣がないから直にその上を歩かなければならない。インフラ整備が整って生活が便利になるのは人間種だけのことだ。まれに側溝を通り道やねぐらに使う狸もいるから一概には言えないものの、多くの野良にとっての整備された道というのは、毎日ハードモードでフロッガーをプレイしているようなものだ。

 公園まで無事に辿り着ければ危険性はグッと減るが、ハードストレイキャッツのメンバーすべてが公園に近い環境内で生活しているわけではないから、メンバーは集合までにそれなりのリスクを負うことになる。

 一度、「何故猫の集会なのに夜やらないのか」とタイガーに尋ねたことがあったが、どこかはぐらかしたような返答をされただけで、そのままうやむやにされた。夜ならば公道を走る車も少ないし日中ほど暑くもない。夜行性で夜目の効く猫にとってはうってつけだし、他の猫たちのグループだって集会はほとんど夜だ。

 しかしタイガーは夜集会に対しては頑として首を縦に振らない。今日もホームレスたちからエサを与えられ、木陰でのんびり横になっている。風もあって爽やかではあるが、クーラーの下で午睡する快適さに比べたら歴然とした差がある。

 この日はアマゾンの森本が公園に来ていた。ちょうど昼休憩にでも当たったのだろう。森本は以前からこの公園で私たちにエサをくれる。それでもずいぶんと回数が減ったのには公園のあちこちに立てられた『公園の犬猫にエサを与えないでください』という無粋な内容の看板を律儀に守ろうとしているからだ。

 森本は私に気づくと近づいてきて「この間はありがとな。おかげでちゃんと荷物届けられたよ」と言った。礼儀正しいと言ってしまえばそうだが、同時に『猫にする話でもなかろうに』とも思ってしまう。

 「あのアパートのさ、届けに行った先。なんと、元カノの家だったんだよ。こんな偶然ってあるもんなんだな。玄関先で荷物渡そうとしたらお互いで「あっ!」ってなってさ。いやあ綺麗になっててびっくりしたよって、ああ、猫にする話じゃあないか」

 そうだろうとも。こういうとき目を閉じて黙っていれば、相手もそのうちやめる。そもそもお前の言う通り、猫にするような話じゃない。

 「いや、でもさ。いま彼女、彼氏と同棲してるみたいなんだよねぇ」

 やはり続くのか。意図せず耳が寝る。

 森本は、基本良い奴だ。エサもくれるし猫に危害も加えない。だが、容赦際限なしに自分の気が済むまで一方的に話しかけてくる。これさえなければ本当に良い奴なのだが。

 『「~さえなければ良い奴なのに」というそいつは、実は悪い奴だ』というのは同居人の言だ。今となってはそのことに激しく同意する。

 「で、その彼氏ってやつがさ――」森本にやめる気配はない。刹那、

 「――いい加減にしな。あんたの話なんか、その猫は聞きたくないってさ」

 本当に突然だった。腕組みをした一人の女が森本の会話を叩き斬った。

 その顔には、どことなく覚えがあった。

 そう、剣桃子。いや、匂いが違う。




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