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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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僕の、ある夏の一日、の3

 剣桃子と話をしている最中、ストレイキャッツと話を終えた猫が合流した。

 彼女は「この子、まだ首輪してないんですね。させた方がいいですよ、本当に。言いましたよね、私」と言った。声は明るめだったが、彼女の目はまったく笑っていなかった。不意に彼女の視線が公園に向く。彼女の行動にはどこか突飛なところがあるように思う。直感的感覚とでも言えばかどがないか。

 「あれ?そういえば公園にあんなのあったかな?」

 それは本当に公園の隅、こんもりとした小山のような姿でそこにあった。子供に遊ばせるにはずいぶん端っこにも思えたが、もしかすると公園が混雑した際に遊具不足を危惧した行政側の配慮なのかもしれない。表面にうっすらと芝らしきものが生えていて、遠目には緑色をした公園のコブのようだ。

 剣桃子はしばし考える素振りをしたが、すぐにどうでもよくなったらしく「その猫に、首輪、絶対させてくださいね」と断じて去った。


 帰り道、猫が「あの女の目、危険だ。私を見る目がどうかしている」と言った。目を細めている。

 「キーマンを捕まえて去勢した女だ。キーマンはあの女にアレを取られた」

 「そうなのか?」

 「そうだ。やつら、『自分たちが神にでもなった気でいやがる』のさ。そのうえ、耳まで切った」

 「耳を?なんで」

 「これ以上、わたしたちを野放しにさせないためだろう。やつら、シンボルを奪うことで数の管理をしている気になっているのだ」スイっと二本足で立って、猫は自分の股間の前で右手(?)を振ってみせる。

 「耳を切るのは我らに対する烙印だ。オスなら右、メスなら左の耳を切る。しかしあの女は、キーマンの左耳を切った」

 「オスなら、右じゃなかったかのか?」

 「そこにあの女の悪意を感じないか?私は感じるがな。怨念にも似た圧倒的な悪意を」

 良く知りもしない相手を批評できる立場ではないが、彼女にはあまり立ち入らない方がいいと感じている自分がいる。こういった直感は存外無下にできないものだ。

 しかし、猫視点からのものはどうあれ、この国において彼女たちの仕事にはそういった内容も含まれている以上、そこはどうしようもないことのような気もした。ルールがあるからこそ維持されている環境もまたあるからだ。

 「そういえば彼女、お前にまた首輪をするように言ってたけど」正確には、言われたのは僕だが。

 「私がそのへんの猫と同じであるとでも?誰があんな間抜けな連中に捕まるものか」鼻を鳴らす猫。

 「いっそお前が政治家にでもなって、猫愛護を掲げたらどうだ。「猫の去勢反対!」、「猫に首輪をつけない自由を!」とかさ。猫好きは多いから意外といけるんじゃないか?」

 「私に選挙権があればな、それもいい。公約に『一日一食は猫に揚げ鶏を食べさせること』を掲げる」

 ふふんと猫は誇らしげにまた鼻を鳴らした。そういえば理屈っぽい言葉を流暢にしゃべるこいつは、猫だった。選挙権はまだない。

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