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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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僕の、ある夏の一日、の2

 剣桃子が指さした先に猫の姿が見えた。この間見た猫たちだということはすぐにわかった。

 ハードストレイキャッツ、確かそんな名前のチームだ。

 それに、一緒になって騒いでいる、あれはホームレスだろうか。

 自分自身に偏見こそ少なかったが、好んで関わり合いたい手合いでもない。それにしても、公共交通機関から少し離れたこんな公園にまでホームレスが居ることには、多少なりとも驚いた。

 これまでは新幹線の停車するような大きな駅の地下通路やその入口付近だけでしか見た記憶がなかった。

 それだけ景気が後退しているのだろうか、考えただけで、背中に冷たいものがはしる。

 今日調べてきた求人情報にもロクなものはなかった。

 残り物に総じて福はない。


 「もう半年くらいですかね。あの人たちがこの公園に住むようになって」

 剣桃子はホームレスのことを知っているようだった。コーヒーの缶をくいっと傾けて、苦さに顔をしかめた。よくよく見ると彼女は最初に会った時のような作業着姿ではない。動きやすそうなぴっちりとした青空色のパンツに、ふんわりめの白いトップスが高い気温の中でも涼しげにひらついている。

 「あ、私、仕事の関係で声をかけたことがあって。悪い人たちじゃないんですけど」

 引っかかる言い方だ。

 「けど?」

 「周辺住民からの苦情が出てるみたいです」

 あまりにあっさり、ポロリと漏らすものだから、公務にかかわるような堅い職場では居場所がなくなるんじゃないかと心配になる。

 「誰かに迷惑を?」

 「いえ、そういうのはないんですけど。でも、実害がなければ良いって、そういうことでもないんですよね。小さい子連れのお母さんとかは子供が遊ぶ環境に、ああいうの、視界に入れたくないって思うみたいで」

 ああいうの。

 彼女の言葉が胸に深く突き刺さった。ホームレスがこの炎天下、好きこのんでクーラーもない公園に住んでいるとでも彼女は思っているのだろうか。なにかを失敗して、挽回もできなくなってしまったから、こんなところでこうしているとは考えないのだろうか。

 失敗のないレールの上を走る電車の窓から「ここはとても汚い景色だわ。服に臭いがうつるかもしれないから窓も締めましょう」と淡い色の服を着た彼女がけらけらと笑っているように映る。

 「アニマル・キラーは捕まった。彼らは犯人じゃなかった」

 「それは、今回の犯人がたまたま彼らじゃなかったというだけなのでは?」

 すいませんすいません、と胸の前で小さく手を振ってみせた彼女の本質が垣間見えた気がした。

 剣桃子の横顔は自信にあふれていて、「賢い乙女と愚かな乙女」の、油をしっかり準備してほくそ笑む乙女のようだった。

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