邂逅の2
猫が。
「猫が、モデル立ちしている!?」
「驚くところはそこなのか!?」
三毛というには模様が幾何学的で、四肢は昭和のバイクに跨った変身ヒーローさながらに白手袋、白ブーツ模様。両眼は縁をわずかに残して大きく黒目が占有している。おまけに後ろ足で安彦立ち。
明らかに普通ではない猫が、こちらの反応が予想に反していたのだろう、ギョッとした表情を見せた。暗がりでキラリ輝く。
「ほかに驚くところがあるとは思えない」
ハァ?猫の、整った精悍な顔つきに疑念の色が浮かぶ。一般の猫が固まる時の、表情。
「普通なら、ここは。『猫が、喋った!』とか、そういうアレだろう、そういう反応をするところだろう?」
「そう言われてもな」
「そう言われてもな、ではない」
はぁ。
小さく息をつく。
「もう、そういうのは」
「もう、そういうのは?」猫が反芻する。
「いや、やめておく」
毎朝習慣的に計測する血圧は、仕事を辞めてからというもの安定の一途だ。家に居ることを除けばノンストレスな生活を謳歌しているはずだ。となれば、これはもはや真夏の夜の夢に違いない。
かかわるべきではない事柄だ。しかし猫は執拗だった。
「何が『もう、そういうのは』なのだ。このままではまるで蛇の生殺しではないか。気になって仕方ない。私が眠れなくなったらどう責任をとるのだお前は。それともなにか?お前は私に眠るなとでもいうつもりか!」
「は?お前今、猫のくせに自分のことを『私』と言ったか?」
「い、言ったがどうした」
「そこはせめて『吾輩』だろう。猫の一人称は『吾輩』と古来から決まっている。それをお前、言うに事欠いて……。ルール違反だと学校で教わらなかったのか!」
「な、なんと……そんなルールが?」
「ある!猫とは元来そういうものだ」矢を継ぐように早口でまくしたてる。
「そもそもだ。お前のそれ、『猫が人語を使う』なんてものは、もうとっくにオワコンだ。使い古されてボロボロのボロな話だ。もはやこの世界にあっては誰もその程度じゃ驚かない」
「そう、なのか?」猫からはすっかり覇気が失せている。
大きくため息を吐いて、二本足で立つ猫の肩に手を置く。
「せめてお前はあと三十年早く生まれてくるべきだった」
そうすればにゃんこ先生や、ルナよりも先んじていたはずだ。
「ということで、わかってもらえたと信じて僕は失礼する」
第2話です。今読み返してるのですが、雑ですね。少しずつ直していきます。サグラダファミリアを造るペースで頑張ります。