私の、ある夏の一日~猫~、の4
公園に着いたとき、傷だらけのメンバーを見て戦慄が走る。しかしゼン爺の苦虫を嚙み潰したような顔を見て、事の大筋は察することができた。
およそ猫らしい経緯であったのだろう。
「寅蔵がさぁ」
キーマンが早速口を開き、その場を茶化そうとするのを、目で制する。
「タイガーはともかく、クールガイまで一緒になってなにをやってるんだ」
「俺様はともかくってどういうことだよ」
「面目ない」とクールガイ。
もちろん人間種には猫の言葉はわからない。にゃあにゃあ言ってるようにしか聞こえないだろうが、ゼン爺にはなんとなく伝わっているようだった。
「お前も大変よな」
ゼン爺の言葉に「まあ(にゃあ)」と答える。
この公園のホームレスを私はよく知っている。各々の不幸を少しずつ噛みしめて寄り添って生きている弱くて、強い人たちだ。
「そう言えばお前、怪我は治ったみたいだな。毛艶も良くなってる。誰か良い飼主でも見つけたのか?」
「にゃあ(まあ)」自然と喉が鳴る。ゼン爺は人間種で最初にかかわったオスだ。だから自分の話し方がゼン爺に近いのには、そういった理由がある。
ゼン爺の笑顔はいつも通りだ。変に飾ったところも追い詰められているふうもない。
最近、意図的にゼン爺たちホームレスと一定の距離を置き、有事以外には関わらないようにしていたが、彼らが今もこうしてこの公園に居ることができて本当に良かったと思っている。
直接的ではないが、そうできた背景には少なからずあいつの恩恵もあるから、「私はやつを無下にはしない」と、今ではそんなささやかな誓いを立てている。
『就職が決まればいいが』と、とってつけたように今、ささやかに、願う。
さんざ食い散らかされたオイルサーディンとその缶が芝生の上に無残に散っていた。黙って缶を咥え、シゲさんの手元にあったコンビニの袋に放り込む。
ラベルはすでになかったが、キングオスカーのオイルサーディンであると気づく。
生臭さはあるものの、キングオスカーのサーディンは、この私であってもその洗練されたつくりに感心を禁じえない。以前よくわからないメーカーの安価なオイルサーディンを食べさせてもらったことがあったが、オイルの質もバランスも段違いで、もはや他のサーディンには見向きできない――と言えたなら最高なのだが。
これを野良猫に振る舞うという、ここのホームレスの優しさと気風が心地いい。
だがしかし、同じ名を冠するオイルサーディンのなにがここまで決定的差になるのか、そこまでは私の猫舌ではわからない。
「私の分をとっておいてやろうという気にはならなかったのか?」
この味をかりそめでしか味わえなかったのだ。たとえ仲間であろうと、スパイスの効いた厭味のひとつくらい言ってもバチはあたるまい。