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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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猫の恋、の5

 剣桃子と佐藤次郎(そう名乗った)の二人組は、国に許諾された動物専門の暗殺集団ではなく、この区域の動物愛護センターの職員ということだった。ただ、いつまでも引き取り手のない動物や、諸々の事情のある動物については殺処分もおこなうのだ、と。

 「私が言いたいのは!」無駄に、剣桃子は力説する。

 「死ななくていい動物まで殺す必要はないでしょうってことです」

 言いたいことはなんとかわかるが、その論理展開はあまりに一方的で、自分の気持ちと感情に寄り添っただけの身勝手なものに思えた。動物自体に非がなく、かつ誰かに飼われているか、飼われる可能性のあるものは救うが、すでに年老いていて飼い手のなさそうな動物や、人に危害を加えた、または危害を加える恐れのある動物については、捕えて、最終的には殺す。彼女の言い分はそういうことだ。そこに自分の求める正義はないし、妥協点すら見出せない。考え方がそもそも根底から合わないのだ。

 閉口する。

 言葉に出せば口論の種になるだろうし、この炎天下で名刺を渡されただけの相手に不毛な議論を展開する気にもなれない。

 「帰ります、暑いんで」

 陽光の下、よく見れば整った顔の女子との別れはもったいない気がしたが、こんな縁は結ばない方が得策に思えた。『猫』が僕の後についてくるのがわかった。

 「首輪、させた方がいいです。間違って――!」

 剣桃子の言葉が途切れた。

 当て推量ではなく、きっとこういうことを伝えたかったのだろう。「間違って、捕まえて、殺されてしまうかもしれないから」

 言葉を止めたのは正解だった。彼女は説明が下手だ。

 「彼女は悪人ではない。それはお前とてわかるだろう?」と猫が言った。

 猫の言葉に僕は返事をしなかった。

 悪人でなくても、彼女は誰かに決められたルールで動物を殺すのだ。それはある意味、明確な悪意を持って動物を殺しまくっている『アニマル・キラー』以上に怖い存在なのではないだろうか。

 「お前、女に騙されるタイプじゃないか?」

 「フェミニストなんだ、私は」

 そうかい、と言って笑う。

 「じゃあ、帰りに首輪でも買ってやろうか?鉄の処女(アイアンメイデン)みたいにいかついヤツ」

 「美猫びじんに土下座されてもそれだけは断る」

 猫は初めて見せる苦い顔をした。

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