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オタクな僕と奇妙な猫  作者: 大原 藍
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猫の恋、の4

 ミイコ(三毛♀)を探して、猫と近所の公園に向かった。アブラゼミが町のあちこちで唸り声のような品のない鳴き声をあげている。このあたりでは優雅で綺麗なミンミンゼミはほぼお目にかかれないかわりに、土着の代表格が幅を利かせていた。

 アブラゼミの、茶色くていかにも量産型みたいなところが、僕はどうも好きになれない。

 公園にさしかかると、手入れされた広葉樹の中でもひときわ目立つシンボルツリーの下に、猫が群れている。遠目で三匹。

 「少し挨拶に行ってくる」そう言って足早に立ち去る猫。やがて、混ざり合った複数の猫たちの鳴き声がここまで聞こえてくる。「にゃあ」と響くが彼らなりの「やあ!」なのだろうか。

 さて。公園に足を運んだものの、ノープランで来てしまったことに気づく。噴水のある大きな公園には整備された遊具、目につくよう配慮された木々が青々とした葉を蓄えて風に揺れている。レーキで綺麗に整えられたベースボールグラウンドに人影はなく、駐車場には仕事をさぼっているのか会社名の書かれた車がエンジンをかけっぱなしで横並びになっていた。噴水の周辺にだけ小さな子供連れの姿が散見されるが総じて人影はまばらだ。気温計のデジタルは三十五度を示していた。

 外周を歩くだけで結構な時間を要する広さなのはすぐにわかった。ざっと見渡しただけで歩く気力が萎える。クールガイの見たという怪しいやつというのも、こう暑くては家に引きこもっているんじゃないだろうか。汗を拭くためにポケットに入れておいたハンカチはすでに湿って、重みさえ覚える。

 「にゃあ」と、いつのまにか足元に猫がきていた。こいつらは毛皮が脱げないのだからさぞ暑かろう。尻尾を短パンからのぞかせた素足に触れさせてきた。

 どうして人語を話さないんだ?――その僕の疑問はすぐに晴れた。足元の猫からふと上げた視線の先に、こちらを見据える人影があった。

 「あ、こんにちはー」

 細身の中年男性と、まだ若く見える女性の二人組が声をかけてきた。パリッとした作業着と動きやすそうな黒のパンツ。男性はよく手入れのされた革靴に、女性はかかとの低いパンプスを履いている。

 「暑いですね」

 あいさつの後、口火を切ったのは男性だ。口角を上げて愛想良く見せているが、黒縁眼鏡の奥の目は笑っていない。どこかこちらを訝しんでいる風を隠せていない。

 直感が、役所の人間だ、と告げた。確信はない。

 「ええ、本当に。こう毎日暑いと嫌になりますね」

 そう、この暑い日の、まして平日に、好きこのんで外をふらつく人間がいたとして、それを好意的に解釈しない人間は多い。それが、最初から僕に的を絞って声をかけてきているとしているならなおさらだ。

 身をかがめて、女性が『猫』を覗き込み、手を差し出す。

 「お兄さんの猫ちゃんですか?可愛いですね。名前はなんて?」

 下から見上げてくる女性の目にも笑みはない。まるで尋問でも受けているようだ。

 「名前はありません。飼っているわけではないので。言うならまあ、同居猫どうきょにんです」

 「同居猫どうきょにんですか」

 こちらの警戒に気づいたのか、表情を和らげる。

 「突然、すみませんでした。私こういうものです」

 女性がおもむろに名刺を差し出してきた。「動物愛護センター 剣桃子」と書いてある。

 「けん……ももこ、さん」

 「剣桃子つるぎ ももこと言います。最近この界隈でペットが行方不明になると聞きまして」

 「まあ、それで調査というか」一緒にいた男が割って入る。男の方の目にはまだこちらを疑っているような気配が漂っていた。

 「保健所とは違うんですか」

 「ええ。私たちは主に動物専門で」

 保健所が動物を保護したり、手に負えなくなると殺処分する組織だと思い込んでいたが、どうやら違うらしい。彼女の言いようだと、彼女たちこそ『その道のプロ』のようだ。

 「ということは、あなた方が政府公認の動物殺害集団ということですね」

 「違いますよ!いえ、違ってはいませんが、違います」

 わからないな。僕は息を吐いた。

 



 

 


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