猫の恋、の2
「助けが要る」
猫が神妙顔で僕にそんなふうにヘルプを求めてきた事は、正直驚いたし、耳を疑った。
「え?」と、素で訊き直したほどに。
素性のしれない猫と奇妙な同居関係になって一週間。大抵のことでは驚かない自信があった。
「今、助けてくれ、と言ったか?」
「ああ」
「僕に?」自分の顔を指差す。静かに猫が嘆息したのがわかった。
猫の表情から、苦渋の決断をしている雰囲気が読み取れた。猫は気づいていないのかもしれないが、自分に不本意なことをしなければならない状況に陥った時、コイツは人と目を合わせることを一切しない。そういうところについて、この猫と自分は、とてもよく似ていた。
必要以上に相手に干渉しない。この一週間、僕と猫はそうしてきた。その距離感が心地良かったし、勝手にではあるが、その状態がこれからもしばらくは続いていくものと思っていた。
思い込みの信頼感が砂の城であることくらい理解はしていた。落胆のするしないについてはこっちの勝手な都合でしかない。
どんな顔をしていたのか。猫がこちらの表情を垣間見て再び静かに息を吐いた。
「私が言った事は忘れてくれ、と言えたなら楽なのだが、そういうわけにもいかん」と猫が掠れ声を出した。頼み事をすること自体、本当は喉がかすれるほどに嫌なのかもしれない。
この国では、素直に言った方が伝わる。かつて吐いたも自身の言葉が、じわりと首回りに貼りつく。
わかった、と頷く。
プライドの高そうな猫が引かずにとどまっている以上、文字通り『猫の手も借りたい』状況ということなのだろう。
「本屋の裏口を見張るくらいの事なら、協力してもいい」
「感謝する。『風に吹かれて』を歌い終えるごとに扉を蹴ってほしいなどとは言わん」