勝負(1)
相手として相応だとは決して思わない。
だが、とにもかくにも、ツェトラはビシュラとの勝負を避ける事ができない。
戦闘を指揮する名目で頼り切っていた仲間たちにも頼る事ができない、今度ばかりは自分の力を信じるしかない。
挑んできたビシュラが首尾よく彼女の依頼者を満足させられるかどうかも、不本意ながら自分次第だ。
その思いが、ツェトラを駆り立て動かしている。
圧倒的な襲撃者であり追跡者であるビシュラから与えられたわずかな時間を使い、山小屋の外に広がる針葉樹の立木の中へ逃げ込んだ。
開拓の手を苛烈な寒さが妨げ続けた、誰が権利を持っているわけでもない北限の森だ。許しを得ずに木を切ったところで、怒られはしないだろう。
苛烈な寒さに身を震わせ、ちょっと無理して買った分厚い防寒着を素早く着込む。
愛用の魔剣を専用の魔法(【魔剣士】たちの御用達)で手元に呼び寄せ、ようやく用意が整った。
できる、できる──うるさい心臓の鼓動をおとなしくさせ、剣を鞘払う。
この剣の力を発揮させるのに、腕力はそれほど重要ではない。
どの木を斬りたいかと尋ねるように魔剣を見つめながら、過不足なく強化魔法を自らに行使。
魔剣と腕のおもむくまま、次々と周囲の木を伐り伏せてゆく。
巨木であろうが針の如くするどい木であろうが、この際どうでもよい。
切りつけ、斬り倒しては、即席のバリケードを作り出す。
ビシュラにとってはアスレチック程度の難易度にもなるまいが、何もしないよりははるかにマシだ。
罠も張ってみようと思った。
エメみたいな力はないし、ニアみたいに得物をうまく投げられるわけではない。
切り倒した木の洞の中や足元の雪の中、周りの木々の枝に括りつけたり──思いつくまま、爆発物やら矢やらの消耗品を惜しまず設置する。
スウィ様のお顔を見たことはないが……ビシュラの戦いの様子をどこかでご覧になっていたとしたら、自分のしていることは多分、滑稽でしかないだろう。
すさまじい威力を持つはずの魔剣で、確実に2つは"星"を持つ戦士と堂々と切り結ぶような、そんな戦い方ができたならば。
と、考えなくはない。
だが、自分の場合はそれを最終手段にするしかない。
戦いの中で急激に成長したり、"星"のごとき何らかの力が目覚めたりとかの都合のいい事態が起きるとも思えず、妙な考えをすぐに捨てた。
脚と腕を重点的に強化して、森で最も高いだろう木の枝に上って少しだけ休む。
ビシュラが来る。
攻撃や自衛の手段をたくさん持っておくほうが良いと言って、ハイジェが買ってくれた貴重な魔法の珠を取り出す。
正直なところとっても惜しいのだけど、持ち腐れてしまうよりは派手に使った方がいい。
磨き上げられた水晶の小さな球体に、風船に空気を入れるみたいにゆっくりと息を吹き込む。
唇をつけず、魔力を上手に込めるのがコツだ。
5つ中3つに灯りがともった。
効果を確認する余裕もなく巨木の根元に投げ落とし、急いで幹を駈け下りる。
『缶ジュース』にしか見えない薬剤を飲んですばやく魔力を補給し、ほとんど疲れもしないでやってくるはずの追跡者を待つ。
決闘の様子を少しでも面白おかしくするつもりなのか、ビシュラはさっき仕掛けたばかりの罠にいちいち引っかかった上で、楽しそうに食い破りつつ迫って来た。
ままよ、と叫んで蹴とばした魔法の珠が破裂し、攻撃魔法の効果を示した。
ビシュラは放電を伴った一直線の青い光線を難なくかわした。足元を横に薙いだ光線に、さすがに驚いたようだ。
細剣を鞘払うと、さきほどよりは慎重に雪を踏みしめて近づいてくる。
ツェトラは巨木の陰に隠れて、ボールを跳ねさせるように魔法の珠を投げた。今度は激しい花火みたいな炎が飛び出し、すぐれた襲撃者の足を止める。
その間に『質量減算』やら『加速』『腕力強化』などを同時に起動して、いよいよ覚悟を決めた。
何人もの師匠について学んで来た、白兵戦だ。
あこがれた騎士や冒険者のような、楽しい勝負になればいいが。
2022/1/11更新。
2022/1/19更新。




