第三皇女(2)
15歳で帝国騎士団の長にまで駆け上がったのは、単に他よりも腕っぷしが強かっただけだと、ヴィルジーナが襟を開いて話してくれた。
ツェトラが応えようと言葉を探しているうちに、姑息な魔導師が口を開いた。
あくまで低姿勢で御前に控えながらも、皇女の言い様をやんわりと否定する。
「どういうことだ」
「殿下、これまでの騎士団の戦いや鍛錬を振り返って見られよ。あなた様の判断に従いつつ、怯まず、恐れず、誇りを持って戦い、そして柔軟に勝ち抜く様子をご記憶であられよう」
「ああ。それはひとえに僕を信頼してくれるからだと思っていた。その口ぶりだとどうやら違うようだな」
「御意。あなた様の"星"はあなた様ご自身ではなく、周囲の人間に影響する物です。指揮下にある将兵の戦意を高揚させ、常に的確な判断を行い、ご自身で見定める"勝ち"を得る。軍に常勝をもたらす才覚であります。これに『天運』を加えたならば、あなた様は無敵の騎士に──」
「よせ、ギルネスト」
ヴィルジーナが鋭く魔導師の言葉を制した。
毅然と背を伸ばしたかと思うと、ツェトラを一息で抱え上げてしまう。
草原に座したままでも、姫騎士らしい厳しさは少しも失われない。
「それ以上は許さぬ、わが愛する異母妹の心を不用意に傷つけて何とする。ヴァイロンのたくらみを稚拙であると罵った言葉は嘘であったか。落とし胤の子らは、第4公女は人形ではないと申したのは偽りであったか!」
姉上の気持ちが、ツェトラには何よりうれしかった。
ただ都合のいいように利用されただけだと──これから打ち捨てられる身であり、それを甘んじて受け入れようとしているのをご存知でいらっしゃるのだ。
ヴィルジーナお姉様が、わたしなどの為に怒りを示してくださった。
たとえウィシュメリア殿下の言葉が事実だったとしても。
ヴァイロン卿の『稚拙な』手法とは関係なく、3姉妹こそが帝位継承者の証である3つの"星"を手に入れようと画策しているのだとしても。
ただ『お前の持っている物が欲しいから譲れ』と迫られるより、何倍もうれしい。
どうせならその位の気持ちでいてくれ、などと願っていたのが恥ずかしい。
だから、2人の間を取り持つ言葉を選んだ。
「失言でございました、ヴィルジーナ殿下。殿下は私の話を分かってくださったものを」
「……僕も言い過ぎた。すまない、あなたの心持ちを理解していたつもりだったが」
異母妹のことになると感情的になっていけない、と言いつつ、第3皇女が魔導師に左手を差し出す。
ギルネストはうやうやしく握手を受けた。
さきほどの姉上の言葉からして──今のところツェトラの想像に過ぎないけれど、この2人はおそらく共犯だ。
ギルネストは、どういう気まぐれを起こしたか、かつて娘のように愛した女性を再び手元に取り戻そうとしている。
ヴィルジーナの真意は測りかねるが、どこかしら魔導師の想いに共感する部分があったのだろう。
それに、3姉妹の中でもいちばん熱心に自分を探してくれたとも聞いている。
「ツェトラにも、あやまらなくちゃ」
「お姉様、どうして?」
「さっきのギルネストの言葉。あれは君を見つけた時の、僕の本音だった。今の今まで自分の"星"の力を理解していなかった僕の、本音だったんだ。僕は……君の"星"が欲しかった」
魔族の血脈に由来する身体と心の強さの上に努力を積み重ね、頭の切れる傍仕えとその親族たちから知略と戦略を学び、あまり好きではない父の背中を見て、皇族らしい威厳をも身につけた。
どんなに欲しがっても"星"を手にすることはまかりならぬのだと割り切って、鍛錬と勉学に日々を費やして来たのだと言う。
「そのうちに陛下が退位をお決めになった。騎士団にも陛下の庶子となるべき子を探すよう軍命がくだった。君を見つけた、見つけてしまった。目が眩んでしまったんだ、僕は」
悲しそうに打ち明けた姉の膝を滑り降り、その顎を捕えることさえできそうな距離で向き合う。
「そんな顔をなさらないで、お姉様。堂々たる帝国騎士団の長が、異母妹に格好をつけて見せられないのでは困りますよ?」
「許してくれるのか」
「わたしに代わってわが国を愛し続けると、守り続けると……仰って、どうか」
「第4皇女ツェトリアに成り代わり、わが灼土帝国のすべてを愛すると誓う。身体と心の続く限り守り続けると、誓う」
姫騎士の宣誓を聞き終えたツェトリアは、微笑みながら指輪のケースを姉に差し出した。
2021/8/25更新。




