兄姉たち(2)
わたしは自分の世界に留まって、会えそうな兄上や姉上にお逢いしようと思う。
顔すら知らなかった10人の兄姉たちのリスト(顔写真入り)を手に、ツェトラは父に言った。
2人の親友の気遣いを受け入れて、父との会話と食事を楽しんでいる。
すでに異世界で活躍していたり多忙な日々を送っている兄姉をいきなり尋ねても迷惑になってしまうだろう。
親戚縁者だからと言ってあまり深追いしすぎてはならない、それぞれの事情や生き方があって当然なのだから。
兄姉に会ってみたいか、と改めて尋ねられ、そのように答える。
「興味持っとくくらいならいいと思うけどなぁ」
「そういうものですか?」
「お前の生き方を否定する気はねぇ。ただ、他人の事情に深入りすんのが怖えぇんかなとは思う。違うか?」
「その通りです、お父様。お母さまとのお別れが唐突だったからです。何か言ってもらえれば違ったかって言うと、きっとそうじゃないとは思うのだけど」
「別れの言葉を口にするくらいなら、少しくらい恨まれてもいいから黙って離れる、か」
「お母さまらしいですよね。ギルネストのどこがいいのか、いま一つよくわからないんですが」
「ははっ、そうだな」
「リムルガーテも。マクスウェルも。ギルネストも、ヴァイロンも。わたしが自分で、許すと決めました。でも」
「心のどこかで許せていないのではないかと思う」
「……はい」
「いちばん難しいと言ってもいいことだ、人を許すってのは──頭じゃ分かっててもな」
「まるで誰かからまだ許されていないかのような口ぶりですね」
「ああ。俺は子供ができなかった正室の気持ちを知らんまま離縁させられた。恨まれてるだろうし、憎まれてもいるだろう。今までは城に居たから何もなかったが、これからは何があったっておかしくねぇ」
平気な顔をして猪豚のステーキを切り分けるマクスウェルに対して、ツェトラは果実ジュースを飲み飲み考えを巡らせる。
正室の怒りや苦しみを正面から受け止められなかったことが、もし、報復されることへの不安よりも先帝の心を苦しめているのだとしたならば。
女帝と騎士。騎士と部下。女王と部下たち。なべて幸福な恋愛模様を目にしてきた者として。
心に決めた大切な人を持つ自分として。
彼らのような不幸な夫婦の形を見過ごしておけるものだろうか?
親孝行とはいかないまでも、お節介の1つでも焼いてみたいのが子ども心と言うものではないだろうか。
「わたしに、お父様の代わりができないでしょうか」
「何を言ってるか分かってんのか。他人の恨みを引き受けるんだぞ」
「わたしは冒険者です。全部おカネ次第なんですよ、お父様」
「もっとちゃんと小遣いをせびりに来いよ」
「それはまた今度。さあ……何かお手伝いできることが、ありますでしょうか?」
心底呆れかえったようなため息をついたが、父はツェトラの無茶を受け入れた。
「俺のかつての妻──スウィの気持ちを聞き出してくれ」
「あらゆるリスクの排除は?」
「それは俺の息子や娘のために頼む。安心して家族と会えない父親でいたくないからな」
「承知いたしました」
「依頼料は前払いか」
「基本的には後払いです」
「払ってもらえてるか?」
「そろそろ複数の依頼者からドカンと入って来るはずなんですけどね」
目的地へ向かう道すがらで依頼を受けていたから、依頼料の授受をせぬままツェトラの方が立ち去ってしまうことが多かった。
現時点でお金持ちというよりは、依頼を受ける側と同じく自らの将来性に賭ける立場の者から依頼を受けることも多かった。
一挙に大金を手に出来るとまでは期待していない。
後になって送られて来た依頼者からの魔法の手紙を見る限り、料金を踏み倒されるようなことはまずあるまいと気楽に構えてはいる。
「依頼者を信用してるんだな」
「そうでなければ商売が成立しません」
「俺のことも信用できるか」
「もちろんです」
信頼や信義、忠義や愛情。
それらを受け止められる人でなかったら、どうして超大国の皇帝など務まるものだろうか。
ツェトラは父を、初めて尊敬と敬愛の目で見つめた。
2022/1/4更新。
2022/1/19更新。




