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巻き込まれてラブ・コメディ!?(3)

ソアンタイグは、ブルー・ナイツの幹部だと名乗った子爵に誘われて気が向いたのか、家の狭い庭に出て訥々と話し始めた。


まあ話と言っても、ほとんどが弟に対する羨望と嫉妬と愚痴である。

弟に先んじること実に10年、若い頃に勇んで騎士団の試験を受けようとした矢先に馬車の事故にい、重傷を負ったこと。

驚異的な回復力で奇跡の復帰と合格を果たしたものの、当時の騎士団には重い障碍しょうがいを持つ者に対する援護の体勢が整っておらず、入団を諦めざるを得なかったこと。

武術の腕前も、容姿も、頭の回転の良さも、すべてにおいてアーヴィングよりも優れていたこと。


いま思えばあの事故はアーヴィングや当時から在籍し続けている部隊長が密かに仕組んだのではないかとまで──すさまじく執念深い口調で、ぼそぼそぐちぐちと話し続けた。


途中で感情的になってふうふうと口呼吸するソアンタイグとは対照的に、コーンウォル子爵は実に落ち着いた態度で彼の話を辛抱強く聞いた。

「今からでも入団試験をもう一度受けようとは思われぬか?」


「嫌なこった……二度と受けるか。この俺を受け入れなかったのを後悔し続ければいい! ああああれから、俺は特別な才能が開花したんだ。お、俺はすごいんだ……けど、親父もおふくろも分かってくれねぇ! たった一回の事故で、弟のせいで! 俺は悪くねぇのに、俺の輝かしい人生が台無しだ、パーだっっ!! これで今さら騎士団なんかに招かれたって知るか、もう遅いんだよバカ野郎!」


ソアンタイグがまた癇癪かんしゃくを起こして腕を振り上げ、彼の正面に座り込んでいる子爵の肩に振り下ろす。

「何が騎士だ」と何度も何度も繰り返しながら、何度も何度も子爵の肩を打つ。

何の応答も返って来ないことに更に腹を立ててか、ついには獣のように唸り声を立て始めた。


ツェトラ達と少し離れた位置で『隠形』を行使して状況を見守っていたハイジェが、急いで詠唱を始めた。

距離がある上に極端な早口だが、聴力を強めたツェトラの耳には届いている。


「『ぐ海が如く、夜のとばりが如く、森包む朝霧あさぎりの如く、静寂せいじゃくの風よ、いざ舞い降りて言の葉の糸を引き裂かん。"スペル・ラプチャー"」


人の口をして発せられていた魔獣の唸り声が、一瞬で止んだ。

続けて、ハイジェンジヤ=レーゲンシュタットが動く。

『隠形』を解くと、余裕たっぷりに狭い庭を歩き、服を着て動く癇癪玉かんしゃくだまにゆっくりと近づいた。

「いけませんよ。貴重な魔法をこんなところでお使いになっては……おうちごと魔獣にみ砕かせるおつもりですか?」


「うっ、うるせえっ……本当ならこんなボロ屋敷に住む必要なんざねぇんだ。俺が、俺の身体が動けば。弟が邪魔しなけりゃ、こんなことにはなってねぇんだからな……俺は悪くねぇ、俺は……」


「違います。あなたが悪いの」

「お、おおおお前に何が分かるんだよ。一体何者なんだ、いきなり現れて偉そうに! あれは事故だったんだ、弟に仕組まれた事故だったんだぞ!? 俺が悪いのかよ! 俺、おれおれ俺は家族の期待を背負って、輝かしい将来をだなぁ……!」


「……そっちじゃねぇよ、このタコ!!」

中年男どころか大気すら震わせんばかりの、細いがするどい声だった。

ハイジェの父は半龍人である。このまま詠唱もなく雷をべたとして、どんな不思議があるだろう。


「今のあんたの言いたかったことを言うのに、何で危ない魔法を使わなきゃいけなかったんだって言ってんだ! あんたの両親も巻き込むところだったんだ、そうなりゃ問答無用で極悪人だぞ!?」

「かっ……構うもんか! 俺を理解しない奴は親じゃねぇ! 俺は何だってできるんだ、俺は……その俺を施設に入れるって言いやがったんだ! ボロ屋敷ごと吹っ飛んじまえばよかった!!」


父親に殴られた拳の跡が生々しく残る顔を真っ赤にして、ソアンタイグが更なる怒りをまき散らす。

様々な罵詈雑言ばりぞうごんを駆使し、石のように目の前に居座る子爵の肩を殴り続け、魔導師見習いに八つ当たりまでしているが……。

ツェトラにはどうしても、彼が「助けてくれ」と叫び続けているように思えてならなかった。


ハイジェは当然それが充分に分かっているから、あえて口論に持ち込んだのだろう。

太った身体の奥底に溜まった彼の怒りを、嫌悪を、憎悪を吐き出させなければ、話を前に進めることすらできないのだから。

2021/12/15更新。

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