ちょっとした調査です(1)
ギルド会員自身が成長と成果を実感しやすいようにするため、他のギルドと同じように、『赤き龍の宴』では階級制度が設けられている。
ただ、他のギルドと違ってその扱いはとても緩い。
階級を上げるための審査を受けるかどうかは個人の自由であり、その高い低いでギルド会員についての何かを決めるわけでもない。
帝国の中枢あたりで用いられる『特別な"星"の有無』といったような絶対的な尺度と言うわけでもない。
ツェトラ達のように研修期間を終えて正式に冒険者となった者に、内輪で与えられる勲章のようなもの、らしい。
冒険に満ちた人生を送るべく己を鍛える『鍛錬』、鍛錬の時期を無事に乗り越え、思い描いた人生へと乗り出す『探究』、冒険と修練の日々を過ごし、他者の信頼を勝ち取り独自のギルドを設立することまでをも許される『統率』。
誰かが階級を上げるたびに宴会を催して祝い、その者の努力を惜しみなくたたえる。
意味ありげにギルド館1階の壁に詳細が掲示してあるものの──そのためだけの階級制度だと言って差し支えないようだ。
「要はお祝い事のきっかけが欲しかっただけだよな」とは現ギルド長の談話である。
先に湯浴みを済ませたツェトラ達が夕刻ごろにレストラン・バーに姿を見せると、さっそく宴会が始まった。
すさまじい実力を誇る代わりに"1日に1度、自分の稼ぎを他人に分け与えなければならない"という幸せだか不幸なんだかわからない【勇者】ジゼルが持ち帰った、きらめくような食材の数々が、ツェトラ達の節目の宴を彩る。
何かスピーチをするよう求められたツェトラが、ギルドの習慣に従って「今日の飲み代を全部おごる」旨を宣言すると、レストラン・バーの全体からひときわ豪快な歓声が上がった。
単純明快な薬草採りの報酬としては破格の3万クレジットがすべて消えると考えるとゾッとするが、ギルド会員の皆も予算を把握しているので、めちゃくちゃな大騒ぎには決してならない。
ギルド長が私費から用意する初陣もその報酬も含めた今日1日のすべてが、新しく『赤き龍の宴』に加わった者に対する祝いなのだ。
……さて。
その宴会の席で、ツェトラは、祝われる側でありながら積極的にレストランのテーブルを回っている。
ザンダーとカーティスの飲み比べ(恒例行事だ)をエメとともに手伝い、ジュリアスを中心に集まった彼の小隊(正確には彼の4人の恋人たち)に差し入れをして喜ばれた。
弟子だという数人の小人族と共に静かな酒を味わう巨人族の【魔導師】アラルガンドの語る哲学を聞き、近い位相の異世界から遊びに来ている【弓騎士】ゲイルに彼女の郷里のことを訊いた。
無口な半猫族の【戦士】ロル・フィンのテーブルで一息ついて、また人波の間を忙しく立ち回る。
宴を自分たちだけでなくギルドの皆で楽しめるようにすると言う大きな目的とは別に、してみたいことがあるからだ。
帝国最強の誉れも高き『赤き龍の宴』──いつぞやギルド長が自慢げに語った、新人や中途加入者に対するバックアップ体制の充実ぶりの他に、そう呼ばれるに足る理由が大小さまざまあるように思えてならない。
その秘密をよく知るには、やはりギルド会員ひとりひとりと親しく関わりを持ち、注意深く話を聞いてゆくよりほかにないだろう。
それに、充実していたとはいえ、決して広いとは言えない世界で過ごして来た自覚もある。広い世界を知ってゆくための手掛かりも欲しい。
内気で消極的なままだと良くないような気もするし、たった数日の違いだけれど幾人かの後輩もできたことだ。
いざ冒険者の一員となったからには、今までに試したことがないような新しいこともしてみたい。
自分達の研修期間の終わりを祝うこの宴会こそが、ツェトラにとって、知りたいことを知るためのきっかけを作る、最高のチャンスだ。
楽しい人生を送って見せるんだから、と気合いを入れ、グラスに映った自らの目を見つめて──フィリップに「顔が堅ぇぞ~嬢ちゃん」なんてからかわれて焦る。
楽しい宴の夜である。
2021/10/27更新。
2021/10/28更新。




