鍛えと学びとその価値と(3)
ツェトラにしては大胆なことに、消費した魔力をすぐに補給してご機嫌なアルトに、思い切って尋ねてみた。
詳しく話を聞いたところ、一通り思いつく限りの武器や各種の魔法を使いこなせるという。
謙遜する割に、何かとんでもない類の"星"でも持っているのじゃないだろうかと思ったのだ。
「アルトはどんな"星"を持ってるの?」
「持ってないよ」
「え!?」
「何でかなんて今でも分かんない。けど、ぼくには才能が何もなかった。だから……皆が考えもしない方法で、莫大な時間を手に入れたんだ」
「……その方法を、お尋ねして良いですか」
平然と"星"を持っていなかったと言うアルトの様子に驚きを隠せないツェトラに代わって、エメリットが冷静に尋ねる。
「いいよ。正確に言うなら、皆が知ってても採用しない方法ってところかな──昔、とても強くて位の高い吸血鬼に会ったんだ」
アルトが首を厳重に守っていた襟の純銀のボタンを、何のためらいもなく外してみせた。
刺青で覆われた蒼白い肌に、確かに鋭い牙でできた傷跡がある。
「ぼくが尋ねて行った吸血鬼は魔導師としても有名だった。大概のことはできるとか言ってたから、昼間も歩き回りたいってわがままを言ってみた。すぐ叶えてくれたよ」
刺青に魔力を込めて身体能力を引き上げる、古くから居る戦闘民族の手法を応用して、太陽や流水にも耐えうる強靭な肉体を提供してくれたと言う。
昼間の太陽に肌を灼かれることなく、流水に恐怖することなく、影を持ち、鏡にも映る。
燃費に大きな問題があって、すぐにお腹がすいたり眠くなったりしてしまう以外は、使っていて便利な身体だと笑う。
「そこまで力を貸してくれたとなると……かなり大きな対価を求められたのでは?」
「鋭いね、エメ──んーと、ざっと100年ほどタダ働きしたな。"わざわざ噛まれに来る捻くれた根性が気に入った"とか言ってたっけ」
タダ働きというのは正確ではないのだろう、と、ようやく通常の思考を取り戻して話を聞いていたツェトラは直感した。
アルトは、その吸血鬼と恋をしていたのだ。
100年の恋など、彼女達にとってはわずかな時間に過ぎなかったのかもしれないが……。
魔に属する者らしく、深く軽やかに愛し合っていたに違いない。
根拠も理由もなく、わずかな暖かさを伴った確信だけが心を占めている。
ならば何故、いま独りで人間の領域に再び戻ってきているのだろう。
細かいことだけれど、やはり確かめずにはいられなかった。
「その人とは別れてしまったの?」
「残念、ちょっと違うね。自分はずっと引きこもってたいから、外の様子でも見て知らせろって言われて出てきたんだ。定期的にあいつの城に戻るようにしてるよ」
普段はつけていないという指輪──永遠の婚約指輪だと冗談めかして贈られたらしい──を見せてくれた。
見るからに美しく堅い魔法鉱物に何か文字が刻まれていれば、ツェトラとしては読もうとするのが当たり前である。
指輪に飾られた魔法鉱物を、魅入られてしまわないように注意深く観察する。
「……"永久の愛を捧ぐ"」
「おっ、すげぇ! 魔法文字が読めるの!?」
「うん。本をたくさん読んだから」
知っているだけで何の実践も出来ていないことが気になって仕方がない。
他に学ぶべきことや経験しておくべきことがあったのではないかと思えて仕方がない。
先に襟を開いて話してくれたアルトに、油断するとすぐに心を占めようとする思いをぶつけてみた。
「だれに聞いても同じことを別の言い方で言ってくれると思うけど……ツェトラ達はさ、これからじゃん。今までのことを気にしないなんて無理だけど、過去よりはこれから先のことを考えた方がいいと思う。そういうアドバイスをくれる本も、読んだことあるんじゃない?」
「あ……う、うん」
「まあ、悩みだったらいつでも聞くよ。他の人はどうだか知らないけど、ぼくは小言なんか言わない。うるさく言われるのが好きじゃなかったもん。それよりは……」
アルトがごく自然な動作で立ち上がった。
鞘に戻していた魔剣を再び構える。
「考えごとが好きな生徒とは、一緒に適度な運動でもした方がいいって、知ってるからね」
2021/10/14更新。




