宴(3)
警備に当たってくれていた帝国騎士(半舷休息で食事中)やビシュラが招待した『谷底の民』、南方のレーゲンシュタット商会からの特使。
蜥蜴人族の一団や、来てくれると思っていなかった怪猿族の工芸職人コルドン。
ジャセンタ兄上の小隊、ウィバート兄上とローズ姉上(とファンクラブから選ばれた数人)、イリア=シークとロル=フィン。
ヒルダが率いていた傭兵や『雨の塔』の運営で超多忙なはずのクレイ=ロッド、バルバロイ=マイヤーの一家。
魔導師ガジャルドと娘たち、『霧の街』の住人からも篤い祝意を受け取った。
スィー・リェンと娘たちからは丁寧な手紙が届いて代読され、アーデルヘルム兄上からも贈り物の箱が届けられた。
宴はかくも賑やかに、和やかに進む。
大量の魚料理がゲストの人数と食欲に手痛い敗北を喫した頃にはすっかり夕刻となり、島の領主館の食堂に舞台が移された。
「よっ、ツェトラ」
「アルト! お久しぶりです!」
引き続く食事会の席上、久々にアルト=ブラッドが姿を見せた。
祝いの席にふさわしく、華麗な赤いドレスをばっちり着こなしている。
両手に信じられない量の料理を満載した皿を3つも持ってさえいなければ、もっとかっこいい登場になっただろう。
ツェトラ達4人は少し椅子を詰めて一人分の席を作り、アルトをテーブルに招いた。
彼女たちに招待状を書き送ったビシュラがさっそく尋ねる。
「アルト師、リュデイア師は? やっぱり無理でしたか……」
「そんなことないよ。ほら」
アルトの右肩の上に、豪華な黒いドレスで着飾った黒髪の小人が姿を見せた。
『久しいな、ビシュラ。通信講座を修了して以来か──無沙汰を許してくれ。外出用の躯体を新調するのに手間取った』
「はい、先生。またお会いできてうれしいです」
『私もだ。して、ツェトラ殿は……』
「ここです、リュデイア様」
「おお、すまぬすまぬ。ビシュラからもミィユからも、立ち入ったことを詳しく聞いていたわけではなかったのでな」
テーブルを見回していた小人──吸血鬼の魔導師リュデイアが優雅に応じる。
『本日は大変にめでたき祝宴。佳き日に領民ともどもお招きいただき、大変に嬉しく思う』
「こちらこそ、ありがとうございます。今日はおくつろぎください」
『うむ。空の島々の怪魚、大変に美味である。この機に縁を結び、交流を持つつもりだ。先々に大いなる楽しみができた。我らからの贈り物はまだ届いていないかね?』
「贈り物……ですか?」
リュデイアの心配そうな視線を追って、庭園の中央、料理が並ぶテーブルを見やる。
今度は野菜と肉を豊かに用いた料理の皿が、食堂の大テーブルに運び出されて来た。
なぜか自分の分の魚を平らげてすぐに姿を消していたミィユが、重そうな手押し車を軽く押して登場したのである。
ここらで休憩かな──としか思っていなかったツェトラは大いに驚いて、隣のテーブルに行き、休息をとるアズユールに詳細を尋ねてみる。
同席するヒエン以下『蛍火の彩』の面々もそろって"してやったり"な笑顔を浮かべてくれちゃったりしている。
祝宴の大まかな予定しか明かされていなかったことを含めて、仕掛けの1つだったのだろう。
アズユール姫がにっこりと口角を上げた。
「ミィユと私、それぞれの故郷からの贈り物だ。ちょっとした仕掛けのつもりだったが……驚いてもらえたかな?」
「ええ、そりゃあもう。ありがとう、アズユール」
「君たちを間近で祝えて私も嬉しいよ、ツェトラ。これからも仲良くして欲しい」
『蛍火の彩』の販売部門を仕切り、会計係もきっちりこなしてくれる年上の友人に深く感謝を示し、彼女が求める通り、変わらない触れ合いを約束する。
「ちなみに、この後も何か仕掛けがあったりしますか?」
「どうかな。私もギルド仲間から叱られたくはない……悪く思わないでくれよ」
あるよ、と教えてくれたようなものだが、皆が考えてくれた仕掛けを楽しまないわけには行かない。
不思議な緊張感を大切に味わいながら、ツェトラは小隊の皆がアルト師と歓談するテーブルに戻る。
2022/8/31更新。




