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決断と方法

目だって何かが変わったというわけではない。

だから本人にしか正確なタイミングがわからないのだろうが……。

もうすぐ『覚醒』を迎えると聞いてから見てみれば、確かに4人とも以前にもまして可愛らしくなっているし、美しくなっている。常に元気で(疲れた顔なども見せてくれるが、それすらも)魅力的で、気力も体力も十二分に充実していると分かる。


最近、少しだけ口数が減っていたのは、目をいくら回しても足らないくらい忙しかったのもあるが、昨晩ビシュラが伝えてくれた不安を──大小の差こそあれ、皆が抱いていたということだろう。

大好きな親友たちの不安を拭い去るには、どうするのが最善か?

すでに見えている答えに飛びつかないよう気をつけながら、久々に取り出した薄紙の束に考えをまとめてゆく。


一番の早道は、ツェトラも自ら魔族へと転生してしまうことである。

この選択肢の問題は、どういう得と損があるか、イマイチよく分からないこと。

一般に流布していない(してたまるか)、ごくごく少数の人間が用いる手段だからだ。

利点だけであれば、誰もが迷わず魔族への転生を望むだろう。体力気力が決して衰えず、常に新鮮な気持ちで、無邪気なまでに人生を楽しみ続ける事ができるのだ。


ならば何故、皆がそうしないのか。人間という種族が世界に在り、未だ大勢を占めているのか。

たどり着いた疑問を解決するべく、ツェトラは転移魔法を行使して、『赤き龍の宴』を訪れた。


「有り体に言えば転生するのが面倒だからだよ、お嬢さん」

「そう……ですよね」

「うむ。魔法を用いて若くある方が簡単だ。時の流れに逆らうことなくごく自然に老い、やがて無条件に別の世界へと不可逆な転生を果たすのが最も良い生き方とされてもいる」


静かに話して一息ついたセルバンテス=ダ=シウバが、愛妻の拵えた握り飯をうまそうに食う。

共に食事を摂るのは久しぶりだが、相変わらず豪快な食べっぷりだ。

朝食を求めるギルド員や一般客を相手に大立ち回りで働いた後のインタビューである。

小隊の皆には、宿題を片付けるからと伝えて、自由時間を楽しんでもらっている。

「では、セルバンテス殿はどうなさったのですか?」


「おれか。おれは持って生まれた身体を捨てた口だ。大いなる不満、大いなる怒りと共に以前の身体を捨て去った。そして強靭な肉体を手に入れた。偉大な師匠があってこそのことだったし……良い子の皆にすすめられるような方法ではない」


巨魁きょかいたる【勇者ブレイバー】が苦笑を浮かべて、わずかに首を横に振る。

やめときゃ良かったと思うくらいの激痛を伴ったか、転生した後に何かとんでもないトラブルがあったのか……。

いずれにしても、ダ=シウバにしては珍しく歯切れの悪い話し方から、あまり立ち入るべきではないと分かる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()未だに深く関わっていないジュリアスと彼の小隊に対しても、ツェトラは同じ感覚を持っている。

自分には決して解けぬ謎なのだという確信──これ以上、彼らの心を開こうとしてはならないのだろう。

少なくともこの世界においては、彼らの秘密は彼らと彼らの恋人たちだけのものなのだ。


「わかりました。ありがとう、セルバンテス殿」

「役に立てず申し訳ないが、永遠の時間と若さを手にする方法はいくつもある。他を探すと良い。具体的にはそうだな……きみの魔法の師匠にあたってみるとかな」


「……!」

「おっと、つい甘やかし過ぎてしまった。忘れてくれ……る訳ないよな。やれやれ」

キョウコ師匠が夫の言葉を聞きつけ、カウンターの奥から身を乗り出して「なんだいセルバンテス、子どもが欲しくなったのか?」なんて大胆きわまる質問をする。


セルバンテスの一番弟子を自称していたレギウスが彼の小隊から姿を消していることなど、気になることはまだあるが、夫婦の時間を邪魔するような無粋な趣味は持ち合わせがない。

ツェトラは素早く席を立ち、身をひるがえして駆け出した。

メルヴェイユ師匠は確か、ギルド館の屋上で空を眺めるのが好きだと仰っていた。

2022/8/6更新。

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