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無能の姫君(2)

皇帝の居城にたどり着くと、さっそく太政大臣だじょうだいじんの執務室に通された。

慇懃無礼いんぎんぶれいを絵に描いたような優男やさおとこ(母ならそう評するに違いない)から、今般、ツェトリアがわざわざ城に呼ばれた理由を聞かされた。

ギルネストや、もっとぜいたくを言えばエメリットがそばにいないのをうらめしく思ってしまうような内容であった。

さきほど魔導師が口にした意味ありげな言葉の意味が、すぐに分かってしまった。


あいさつもそこそこ、帝位を継ぐ気があるかないかを尋ねられた。

困惑と沈黙をどう受け取ったものか。

太政大臣は続けざまに、帝位を継ぐ気がないならマクスウェル陛下の嫡子ちゃくしであられる3姉妹に"星"を譲り渡して城から去れ、と冷たく断言した(言葉は馬鹿みたいに丁寧だったが)。


「質問を」

「許可します」

「わたしの"星"とは? 自分のことながら、とんと何かに才覚を発揮できた覚えがないのです」

「リルムガーテは一言も話さなかったのですな。あの女らしいと言えばそうですが」


敬愛する母を呼び捨てにされるどころか"あの女"呼ばわりされて腹が立ったが、ツェトラはそれを少しも顔に出さずに回答を待った。

我慢がまんしたのではない。"ツェトリア=ロートシュテルン"なる人物がもし居るならどうするか、を考えたのだった。


大臣閣下は非常に面倒臭がったが、皇帝たり得る者の資質から語り始めた。

いわく、皇帝は代々3つの"星"──個人に宿る才能や才覚、広くは技能をまとめてこう呼ぶ──を一身に継承して大国に君臨するのだという。


「皇帝は帝位を間違いなく継承するため、正室の他に側室を幾人も持ち、子どもを多数もうけることになります。お分かりですな? 異国や異世界の王族と同じことです」

「はい」

「『不老』『天運』そして『読心』──3つの強大なる"星"が、1人の子女につつがなく引き継がれれば、何も不都合はありません。ですが、()()()()()()()()?」


このような尋ね方をされるということは。

「そうではなかった」

「御意。皇帝の資質である3つの"星"のうち、『読心』だけが、マクスウェル陛下が御子みこと認める3姉妹の次女ウィシュメリア様に引き継がれました。残る2つの"星"を宿す御子みこを探した挙句、最後に残ったのがツェトリア姫、あなただ」


貴方はわたしを何とも思っていませんね、と喉まで出かかった言葉を飲み込み、大臣の言葉に頷いて見せる。

「改めてお尋ねしよう。貴殿は帝位を継承し、皇帝となる覚悟をお持ちか。さもなくば落としだねの子らしく、栄えある皇帝陛下の嫡子たる姫様方に"星"をお譲りし、去るか」


この男は……。

きっと、同じ温度の言葉で、"星"をお持ちでないという2人の皇女や、皇帝の血を分けたほかの子らにも決断を迫ったに違いない。


「1日の猶予もいただけませんか。落としだねの姫では、顔も存じ上げないお姉様方にお会いすることもまかりなりませんか」

「ご決断に必要とあらば、お望み通りの猶予ゆうよ仮初かりそめの生活とをおくらせて頂く。まずはギルネストと共に皇女殿下の離宮へ赴かれるが良かろう。ご英断に期待しております、()()


話は終わりだと言いたげに深々と一礼する優男に見送られて、彼の執務室を出る。

部屋を出たところで、ギルネストが待っていた。

ツェトリアが太政大臣閣下にたずねた質問は実のところ、彼から聞いた話の確認に過ぎなかった。

「いかがなさいますか」

「お姉様方にお会いできることになったわ。それと、少しの間ならお城に滞在しても構わないと。ギルネスト、お姉様がたの離宮に案内してちょうだい。貴方も同席してね」

「無論であります、姫様」


城へ向かう馬車の中で、ツェトラは魔導師ギルネストの更なる秘密を共有した。


それは、母リルムガーテがかつて、彼の庇護ひごと愛情のもとにあったことだ。

『我が子のように育てた娘と熱く激しく恋に落ち、結ばれる──そうでもせねば、お前はどれほど生きても愛情に満たされることはないだろう』

……と、彼があまりにへそまがりなのを重く見た彼の師に言われたのだそうだ。


特に不思議だとは思わなかった。

自分で育て上げて将来お嫁さんにしちゃおう、と考えて美少女を拾って来るヘンな魔導師のお話の絵本を、よく読んでいた──あの主人公はハゲではなかったが、きっと母リルムガーテが実話をもとに勝手に描いた絵本だったのだろう。


母が自分を産み育てることになって、くやしかったかと、訊いた。

ギルネストが頷かなければ、どうして彼の姑息こそくな計画に協力しようなどと思っただろうか。

2021/8/16更新。

2021/8/25更新。

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