詩集「月面戦争」

月面戦争

洞窟

　洞窟　話してほしいこと　ひそひそばなしで愛をささやく　むかしがたりをして　パレットの絵の具で　洞窟を描く　あのころの洞窟　秘密基地だったあの場所　忘れたころに思い出すさびしさ　性病みたいな記憶　忌み嫌ったままの初恋　洞窟　といっても大したものではなかった　山奥の　ちょっとした洞穴で　ひんやりとしていて　きみと肩を並べて　三角座りするので　いっぱいだった　そのくらいの洞窟で　たぶんまだ引っかかっている初恋をして　それは実らないし　実らなくてよかった　と　おもう　洞窟　ひそひそばなしで秘密をうちあける　核心はいわずに　おたがい笑いあって　むかしがたりをしよう　パレットの絵の具で。