03 こんにちわシェイナさん。パーティ最後の一人です。
「私の名前はシェイナ。よろしく、ノックしても出てこない勇者様!」
「あ、あは...」
どうやらノックして待っててくれるほどいい人ではあるらしいのだが、流石に怒っているようだ。
確かに悪いのは葵とアリスである。
ノックされて返事もせずにただそのまま放置しているだけだったのだ。非難されても何も言えない。
「まぁまぁ、シェイナ。私たちも今この家についたのです。案内していたので、ノックが聞こえていなかったのですよ」
シェイナが座っている椅子の前に机を用意し、どこから用意したのか、紅茶を差し出すアリス。
実際のところは扉の前で、誰だろう、誰だろうと二人してただ扉を見ていただけなので、ばっちり気づいていた。
「そんなわけないでしょ。私全部『視えて』たんだから、嘘ついても無駄なの、アリスも知ってるでしょ」
「そうでした。シェイナは『視える』んでしたね」
二人が何やら知ったような会話をしているが、それよりも、葵には気になることがあった。
「二人は、知り合いなの?」
葵が首をかしげて言うと、アリスは、あぁ、と顎に手を添えた。
「そういえば、勇者様にはまだ言ってませんでしたね。私たち勇者パーティに入るメンバーは、もちろん私も含まれていますが、そこには私の幼馴染であるシェイナも含まれています」
「な、なるほど」
幼馴染。
なるほど、だから距離感が近かったのだろうか。
そう考えている葵だが、かくいう彼女にも、幼馴染という存在がいた。
気になる男子ができかけるたびに、そのだしの悪事を吹き込んでくる女の子が。
(そういえば、あの子、私にはすごい優しいのに、他の子には全然優しくないの、なんでだったんだろう)
まさかね、と笑う葵だが、今となってはその気持ちを確かめるすべはない。
それで、とシェイナは用意された紅茶を啜りながらこちらを見る。
「勇者様、一つ聞きたいことあるんだけどさ」
「は、はい、なんでしょう?」
突然シェイナに話しかけられた葵は体をびくりと振るわせて背を伸ばす。
先程まで幼馴染同士で仲良く話していると思ったら、突然こちらに話が向いたのだ。
誰でも驚くだろう。
「もしかして、気づいてた?」
「え、っと...?」
一体何を聞かれるのだろう、と内心びくびくしていたのだが、聞かれた内容がよくわからないような内容だったので、葵としては首をかしげるばかりだ。
葵の反応をしばらく見ていたシェイナは、満足したのか、なんでもない、とだけ言ってアリスの方を向いた。
「...???」
そのままただの世間話をし始める二人を見てなおさら首をかしげるだけの葵だが、その様子を見て、シェイナはアリスにのみ聞こえる声量で喋りだす。
...この至近距離で一人に聞こえないように喋るというのは、器用なことだが。
(ねえ、あの子、本当は気づいてたんじゃないの?)
(もしかしたら、気づいていたかもしれないですね。本人の実力というよりかは、『勇者』の力が底上げしているように見えますけど)
扉をノックしても誰も出てこなかったあの時、シェイナは殺気と共に、透視魔法を使用していた。
その殺気に反応していたからこそ、葵はあの時鳥肌が止まらなかったのだが、その理由を本人はまだ知らない。
「まぁ良いけど。とりあえず、パーティメンバーは揃ったのかしら」
飲み終わったカップをアリスに渡し、おかわりを要求しながら、シェイナがそう言う。
受け取ったカップを机に置き、追加の紅茶を注ぐそぶりを見せないアリスが頷いて葵を見る。
「そうですね。私たちの予定ではこの三人でとりあずは出発ということになっていますが、勇者様が心配であれば、もう一人二人は追加してもいいと思いますよ。まぁ、いずれも女性がメインになると思いますけど」
「女性がメイン?」
葵が首をかしげる。
とはいえ、それも理想の話だ。
メンバーが今のところ全員女性だから追加の人員も女性でまとめたいというのも理解できるが、なかなかどうして、そううまくはいかないのが世の中だ。
勇者が呼ばれる前に長い時間をかけて選び抜いた二人なのだ。
魔王を倒す、というのが第一の目標ではあるが、実際のところ、『魔王を倒そうとしている』という姿勢を見せているだけという面もある。
その為に、実力を多少度外視して、年齢の近いメンバーを選んでいる。
「えぇ。勇者様も、年齢で同性の方がやりやすいでしょう? まさか、男の方がいいの?」
「いや、確かに女の人の方が助かるけど...そんな人すぐに出てくるの? 同じ年齢の人なんて、もっといなさそうだけど」
「まぁ、候補は割といるから大丈夫ではあると思うけど。まぁ、勇者様が必要だと思えば追加の人員を要請するわよ。もしかしたら旅の途中で仲間が増えるかもしれないけど」
「それありなんだ」
まぁね、とシェイナは頬杖をついて、アリスに向かって吠えた。
「紅茶よこしなさいよ!」
「ごちそうさまの事なのかと思いました。あれおかわりの合図だったんですね」
「あんたわかってやってたでしょ!」