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02 家ですか。ありがとうございます。

「それではまず、勇者様が暮らす家を紹介しましょう」


「え、そんなのあるの?」


当然とばかりに言うアリスに驚く葵。

別の世界の住人なのに、そんなに手厚く保護(?)をしてくれるんだ、と葵は感動したが、アリスは首を横に振ってそれを否定した。


「こちらの都合で勇者様をお呼びしているのです。ちゃんとしたものを用意しなければいけないのは当たり前なのでは?」


「...人が出来てるねぇ」


実際のところ。えらい人達は勇者の力が自分たちに向くことを恐れているだけなのだが、何も知らない葵は素直に感心した。

そして感謝もした。


「...」


窓に向かって手を組んで感謝をしだした葵を見て、裏のことをある程度理解しているアリスは、微妙な顔で笑った。


「まぁそんなことはどうでもいいのです。まずは実際の場所に行きましょう!」









アリスに案内されること数十分。

その道中、さすがは王城。

葵の気を引くものはたくさんあったが、それらすべてを見ていては時間がいくらあっても足りないので、渋々アリスの後ろをついていった。


そうしてたどり着いたのは、恐らくまだ王城がある敷地内のどこか。

十人くらいは住めそうな大きさの家、だった。


「いやでかすぎじゃない!?」


目を見開いて驚く葵だが、アリスは頬に手をあてて首をかしげるばかりだ。


「そうでしょうか? 勇者様はもしかして、元の世界では小さな家で暮らしていたんですか?」


「...しかも、こんな一軒家じゃなくて、ぼろっちぃアパートだったわよ。暮らしてたのは私一人だったし」


そうして思い出すのは、いつのことだったかすら曖昧な、家族の記憶。


そんな葵を見て、事情を察したアリスは、それ以上は何も言うことはなかった。


とにかく中に入った方が良いだろうと、アリスは家の鍵を開ける。


「それでは、中の案内をしましょう!」


「う、うん。よろしく」







「最後に、こちらがお風呂場になります!」


「あ、お風呂あるんだ」


家の中を案内されること数分。

個室が何部屋かあり、後はリビングやキッチン、バスルームに該当する場所もあることが分かった。


中でも、お風呂に入れるというのは葵にとってはとてつもなく嬉しい。


「そうですね、前々回の勇者様が言っていたのですが、『お風呂は心の洗濯だ』とかなんとか。言っていたことの意味はよく分かりませんでしたが、気持ちのいいものであることには変わりはないので、国内で広く普及していますよ」


「あ、そうなんだ」


「はい。前回の勇者様にも大変好評だったのですが、いかがだったでしょう?」


そう言って、葵を心配そうな顔で見るアリス。

はて、何かあったのだろうか。そこまで考えたところで、とある考えに至った。


(なるほど、アリスちゃんは心配なんだ。今代の勇者である私が気に入るかどうか)


少し考えればすぐにわかる事なのだが、葵は得意げな顔で微笑んだ。


(ははーん、なるほどなるほど。アリスちゃんは全くかわいいですなぁ、えぇ、えぇ)


「大丈夫、私も大層気に入りました!」


「...? そうでしたか、喜んでいただけたようで何よりです!」


何を思ったのか、普段使わないような言葉を使おうとしてだいぶ回りくどい言い回しをしてしまい、アリスは少し固まった後、内容をなんとなく理解して微笑んだ。


そんなやり取りを二人でしていると、扉をノックする音が響いた。


扉の方を向いて、首をかしげる二人。


アリスは勇者が来ているのは上層部のみ知り得ている情報だということを把握しており、国民への発表はまだだと認識している。

だからこそ、この家に誰かが来るというのは限られた人物になるのだが、誰かがここに訪ねてくるということに思い当たる人物はいなかった。


葵が首をかしげているのは、アリスが不思議そうにしているからであって、彼女は何も理解していない。


「ここは空き家でしたし、勇者様が来ていることを知る人は少ないはず。誰が来たんでしょう...」


「...」


アリスの言う『少ない』という言葉に反応し、思い返されるのはこの世界に飛ばされた直後の光景。

葵を囲むように立っていた数十人の男たち。

あれで『少ない』というのだから、驚きだ。


きっと感性が違うのだろう。

葵はそう自分を納得させて、扉を改めてみる。


一度目のノック以降、再びなる様子はないが、『勇者』と選ばれたからなのだろうか。

扉の前にまだ誰かがいる気配はしている。


それも、鳥肌が立つような。


「...ねえ、もしかしてなんだけどさ。あの扉の向こうにいるのって、敵、とかじゃないよね」


「まさか、勇者反対派は存在しますが、そこまで過激派ではなかったはずです。そもそも、彼らは異世界の住人に頼らずに自分たちの力で魔王を倒そうとする一派ですから」


「な、なるほど...」


(全世界の人間が私たち勇者だより、ってわけじゃないのね)


しかし、そうして喋りをしている二人についに待ちきれなくなったのか、木製の扉が少し乱雑に開け放たれた。


そこに立っていたのは、黒色のローブを着た、釣り目で勝気な印象を持たせるような雰囲気を身にまとった少女だった。


「いつまで待たせんのよ! ノックしたでしょうが!」


そういう彼女の声もまた、かわいいものだった。

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