表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

01 こんにちわ異世界。私は帰りたいです。

のんびりと。

「勇者が誕生したぞー!」


「これで世界は救われる!」


「え?」


藤島葵。十六歳。

彼女は最近誕生日を迎えた高校二年生。


「やりましたな」


「ええ、後はパーティーを結成し、魔王を倒すのみです!」


「...?」


ついこの前、気になる人がとんでもないクズ野郎ということに気づかされ、当分恋愛なんていいやと公園の滑り台で夕焼けを見ていた彼女だが。

気付けば彼女は、とある広場のような場所で、数十人に囲まれ、騒がれていた。


周りに立っているのは、誰も見知らぬ顔ばかり。

テレビで見たことのあるような顔でもなく、日本人のような特徴の顔でもない。


少なくとも外国人なのだろう、と葵は考えるが、果たして、どこの国の住人なのだろう。


「あ、あの~...」


「おぉ、ようやく喋ってくださいましたか。ずっと黙っているので心配していたんですよ」


「ひぇ、日本語だ...?」


まさか日本語が通じるとは思わず、葵はつい尻込みしてしまう。

そのまま、ここはどこなのかと尋ねることが出来ずに、男はそのまま喋り続ける。


「ニホン...なるほど、それが勇者様の住んでいた地域なのですね。伝承通りです」


「で、でんしょー...?」


「はい」


その後も男は、『あなた様はこの国、いや世界に降りたった救世主なのです』と言い、『これからあなたは世界を救う旅に出るのです!』と言い。

いろんな話をしていたが、すでに葵のキャパを超えていた。


(そもそも、ここはどこなのよ...)


彼女の記憶が確かであれば、先ほどまで、友人たちと楽しく会話をしていたはずだ。

会話の内容は、新しく入ってきた新一年生の顔のランキングという、なんともまぁ、女子高生らしいと言えばらしいような会話だが。

ちなみに、葵の好みは守ってあげたくなるような小動物系の男子なので、新一年生には好みの男子はいなかったようである。


(って、私の好みの話はどうでもよくて! とにかく、ここがどこなのか、それを早いところ教えてもらわなくちゃ!)


そうして、葵は気合を入れて、男に話しかけようとして______。


一つの部屋にたどり着いていた。


「...ダメだった...」


彼女は人見知りを発動していた。








最初にしていたような話をなんとか思い出すと、彼らは『勇者』だとか話していたような記憶があった。


「ってことは、私がその勇者...勘弁してよ...」


葵は近くの椅子に座り、力なく項垂れた。

空想上の物だとばかり思っていたものが、いざ自分の身に降りかかるとは、だれが予想できただろうか。


世の中には、そういう世界に憧れている人もいるだろうが、葵はそんなものは望んでおらず、人並みに暮らしていたいだけであった。


「というか、そういうのは憧れてる人にこそやってよ...私は別になんもしたくないし、なんもできないよ...」


最悪だ、と愚痴りつつ、ポケットをまさぐる。

偶然着ていたのが、私服だった。これで制服だったら何するにしても動きにくかっただろう。


とはいえ、今葵が着ているのも、ひらひらしたスカートなので、どちらにせよ動きにくいかもしれないが。

そんなスカートのポケットの中には、飴玉が二つだけ入っていた。


この飴玉が、今は地球と自分を結びつける唯一の物。

スマホはあの時机の上においてしまっていたので、残念ながら手元には無い。

勿論財布もないし、鞄もない。


「うぅ...一つだけ食べる...」


とはいえ、心細くて死にそうだったので、仕方なく二つの内一つを口に入れる。

味が記載されていないタイプの飴玉だったが、なめてみると、イチゴ味だった。


変な味じゃなくてよかった、と、内心ほっとする。


そうして、飴玉をなめることで現実逃避をしていた葵だが、扉がノックされたことで急速に現実に引き戻される。


「入ってもよろしいでしょうか」


「は、はい!」


聞こえてきたのは、若い女性の声。

先程広場で葵を囲んでいた中には、記憶の中では女性はいなかったはずなのだが...と考えながら、葵はとっさに返事をした。


「失礼します」


そうして入ってきたのは、金髪ロングの、ドレスのような、私服のような、曖昧な服を着た美人さんだった。


「ひょえ...」


あまりの美人さに変な声を漏らしたのは、残念ながら葵である。


「私の名前はアリス。アリス・ヴィルヘル。アリスとお呼びください」


「あ、えっと、葵です。藤島、葵...」


「アオイですね。よろしくお願いします」


そうやって、にこりと微笑むアリス。

その笑顔のまぶしさに、葵はすでに屈服しそうになっていた。


(な、なんて眩しさなの! この子から溢れるこのオーラ...まさか、この国の王女、とか言わないよね?」


「さすがですね、勇者様に隠し事は通じませんか。そうです、私はこの国の第二王女です」


「...もしかして、口に出してた...?」


「ええ、はっきりと」


やっちまった、と。

葵は本気で頭を抱えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ