少女、森の小道で熊に出会う
なろうラジオ大賞2第十二弾。こうなったらお題コンプリートとかしちゃおうかと思う今日この頃。
今回のテーマは「森の」です。森のときたらあれでしょう。
今回は恋愛もギャグもなく、その分全編通してネタという形で作ってみました。
お楽しみいただけましたら幸いです。
少女は春の森の道を歩いていた。
彼女の父は三日前、いつものように森に狩りに行ったまま帰ってこなかった。
(お父さん……)
この季節は冬眠明けの熊と遭遇する可能性がある。熟練の狩人でも危険な森を、武器もなく歩き回るのは自殺行為に等しい。
「! お父さん!?」
草をかき分け、枝を踏み折る後に少女は振り返る。だがその期待は最悪の形で裏切られた。
「く、熊……!」
自分の倍ほどの身長の前に、へたり込む少女。その命は熊の腕なら簡単に散らされてしまう事だろう。
だが熊はそうしなかった。
「……オ、嬢、サン……、オ逃ゲ、ナサイ……」
「しゃ、喋った……?」
少女は昔父から聞いた話を思い出した。森には知恵を得た、守り神たる熊がいるのだと。
少女は恐怖を抑えて叫ぶ。
「熊神様! 私の父を知りませんか!? 三日前に森に入って以来行方不明なんです!」
「……ココハ、人間ニハ、危険ナ、森……」
「!」
その言葉で少女は悟る。父はもう……。
「……オ逃ゲナサイ……」
「……ありがとう、ございます……」
涙を堪えて少女は踵を返す。薄々覚悟はしていたはずなのに、たった今切りつけられた傷のように、鼓動と共に悲しみが吹き出していた。
「……お父さん……!」
悲しみに囚われていたせいか、それともその足音があまりにも軽く小さいせいか、少女は声をかけられるまでその存在に気付けなかった。
「……オ嬢サン、オ待チナサイ……。コレ、落トシ物……」
「く、熊神様!?」
熊の手にはあまりに小さな、白い貝殻のイヤリング。それは父の誕生日に少女が作って贈った物だった。
「これ、お父さんの……! ありがとうございます熊神さ、ま……!?」
見上げたその目とぶつかる熊の瞳。それは少女にとって間違えるはずのない、毎日見ていた瞳。
「お、父、さん……?」
「……」
「お父さん、お父さんなのね!?」
少女はその胸に飛び込む。熊は無言で受け止め、その背を撫でる。
「どうして、どうして……」
父が異形となった悲しみと、それでも再会出来た喜びとで毛皮を濡らす少女。熊は何も答えず、ただその背を撫でていた。
「……お父……、熊さん、ありがとう」
泣き腫らした顔で、それでも笑顔で少女は熊となった父を見上げた。
「……お礼に、歌いましょう」
少女は母から教わった、神への感謝の歌を歌い始めた。神となった父が、末永くこの森を守れるように。その孤独が少しでも癒されるように。
熊は静かにそれを聴く。その目には微かに涙が浮かんでいた。
読了ありがとうございました。
えぇ、はい。童謡「もりのくまさん」です。
昔見た漫才のネタで、「もりのくまさん」の歌詞のおかしなところを指摘するネタがありまして、そこから話を膨らませてみました。
お嬢さんに出会った熊に「食うてまえそこで!」とツッコんだり、お嬢さんの逃げる足音に「おっさんやないか!」とツッコんだり、追いかける熊の足音に「軽いな!」とツッコんだり。
どなたか漫才のタイトルとかコンビ名とかご存知でしたら、教えてください。
それではまた次回作でお会いしましょう。